研究課題/領域番号 |
18K04023
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 卓見 九州大学, 工学研究院, 教授 (40274485)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 診断 / 超音波 / 信号処理 / 同定 / 瞬時振動数 |
研究実績の概要 |
歯周病等により失われた歯に代わり歯科インプラント(人工歯)が広く用いられてきている.その一方で,インプラントねじの緩みにより侵入した細菌に感染し,歯槽骨や顎骨が溶けインプラントが脱落する問題が知られている.本研究では,申請者が提案した超音波パルスの瞬時振動数変化を利用する診断技術を応用し,インプラントの締結状態を検査・評価する技術を提案する. 一昨年度の研究では,縦波として投射した超音波パルスがねじ山を透過する際に横波にモード変換してねじを透過し,その際に締結状態に対して非常に有効な情報を含むことがわかった.昨年度は,まず横波の瞬時振動数とねじの締め付けトルクの間の定量的な関係の評価を試みた.ねじの締め付けトルクをねじ山間の真実接触面積の割合の変化として仮定し,数値計算から瞬時振動数と締め付けトルク間の定量的関係を見出そうとした.しかしながら,現実にはあり得ない程度の真実接触面積を仮定しなければ実験を再現できず,このアプローチは適切でないと判断した.その代替案として,締め付けトルクをねじ山間の接触剛性として表現するアプローチを試みた.接触剛性はねじ山間の接触面圧および締め付けトルクとの関係がすでに実験的に知られており,数値計算を行った結果,瞬時振動数と接触剛性および締め付けトルクとの間に比較的良好な関係性を見出すことができた.これが昨年度明らかになった最も重要な知見である. 一方で,推定された締め付けトルクの値は実際の値よりも若干小さい傾向にあった.この精度の改良が本年度の課題である.また,横波の検出精度を向上させる過程で,瞬時振動数を積分した位相平面が締め付けトルクの定量評価に対してより高精度の情報を持つ可能性があることがわかってきた.この位相平面を用いたアプローチについても試みたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一昨年度に見出した,超音波パルスのねじ山透過の際に縦波からモード変換した横波が検査において効果的という新たな知見について,昨年度は横波とその変化量を精度よく求める手法を考案するとともに,ねじの締め付けトルクの定量的評価法について研究を進めた. 締め付けトルクの定量的評価法として,当初はトルクの変化をねじ山間の真実接触面積の割合の変化として仮定したが,現実にはあり得ない程度の真実接触面積を仮定しなければ実験を再現できなかった.代替案として,締め付けトルクをねじ山間の接触剛性として表現するアプローチを試みたところ,瞬時振動数と接触剛性および締め付けトルクとの間に比較的良好な関係性を見出すことができたため,締め付けトルクの定量的評価についてはおおむね順調に進展したと評価している. 一方で,横波とその変化量を精度よく求める手法については,不要な超音波パルスをキャンセリングにより減少させる方法を検討したが,不要な超音波パルスと必要な超音波パルスの切り分けが難しく,当初の目的は達成できなかった.ただし,超音波パルスの位相情報を利用する方法を新たに開発中であり,本年度検討する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
上述のように,超音波パルスの位相情報を利用すると締め付けトルクを精度よく評価できる可能性があることがわかった.これは,縦波とモード変換された横波も含め,様々な経路をたどってきた複数の超音波パルスの干渉の状態が,複素ウェーブレット変換した位相平面上の特異点として現れることを見出し,さらには,締め付けトルクの変化によってそれらの特異点の位置が位相平面上で定量的かつ有意に変化することを見出したことによる.ただし,特異点の変化の感度は超音波パルスの基本振動数等の影響を少なからず受けるため定量評価の精度が現時点ではまちまちであり,より高精度に特異点から有効な情報を抽出できる方法を検討する予定である. また,ねじ山間の接触状態も,昨年の研究から判明したように,真実接触面積の割合ではなく接触剛性としてのモデル化を継承する.ただし,推定された締め付けトルクが実際の値よりも若干小さい傾向にあるため,この点に関する改良を行っていく.上述の位相情報を利用する方法は,当初から利用している瞬時振動数を用いる方法より定量評価には効果的である感触があり,この点についても可能性を探る予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は使用している有限要素法ソフトウェアの保守契約に50万円程度の経費をかけているが,実際の引き落としが本年度になったため,次年度使用となった.また,研究発表,調査等の旅費を他経費で賄うことができたため,予定していたこれらの予算も次年度への繰り越しとなった. 超音波探触子は消耗品であり予想より損傷する探触子が多くなっているため,繰り越しの金額はその補充に充てるとともに,数値計算に想定以上の時間を割いているため,計算機の性能向上にも充てたい. 一方で,当初は研究成果の報告等のため学会,講演会出席を積極的に進める予定であったが,新型コロナウィルスにより学会開催が不透明になっているため,これらの予算は実験系の充実に充てる可能性がある.
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