研究課題/領域番号 |
18K04028
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
植田 毅 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30251185)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | フォノニックレンズ / 超音波 / アダプティブなフォノニック構造 / トポロジー最適化 / 有限要素解析 / マイクロ流路 / 音響ホログラフィー |
研究実績の概要 |
本研究のキーポイントはPDMSで作製したマイクロ流路に液体金属を適切に配置し、音響レンズを構成することである。PDMSの吸収による超音波の減衰の懸念があったが、6月時点で、Texas A&M UniversityのKameoka教授の協力でマイクロ流路を作製し、岡山大学の鶴田健二教授の協力により、PDMS膜1枚による減衰は,測定精度の範囲内では無視できる程度(10% 以内)であることが確認できた。 トポロジー最適化による音響レンズの数値計算の実績のある名古屋大学大学院機械システム工学専攻の松本敏郎教授の研究室との共同研究で、マイクロ流路内に液体金属を配置するという拘束条件の下で液体金属の配置を試みる計算を行った。液体金属の形状を流路に沿った円柱状に制限した場合、流路内での変形を許す場合でのレンズの最適形状を決定した。その形状を用いて、暫定的にPDMSロッドに金属塗装する方法によりデバイスを作成した。レンズ効果の測定依頼をしているが、デバイスが小さすぎるために測定方法を検討中である。また、松本研究室による数値計算法の改良により、レンズによる集束強度をこれまでの2倍とすることに成功している。更に、最適化の初期形状として、フネレルレンズ形状を用いることにより最適化計算の集束を加速することができた。 新たなアプローチとして、ホログラムの原理を用いて、脳内の点光源から頭蓋骨を経た超音波と入射波との干渉により音響レンズを構成することにより、複数焦点のレンズの形状を決定した。 これまで、頭蓋骨外部については空気を想定していたが、簡易モデルを用いて外部-頭蓋骨-脳の系での超音波の共鳴状態および頭蓋骨内のポーラス構造による散乱を解析し、外部を脳と同質の物質で覆い、音響レンズを空気層で作製するのが理想的であることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トポロジー最適化によるレンズの設計はこれまで最適化の計算が収束しない現象が現れていて、進捗が滞っていたが、2018年11月に初期状態をフネレルレンズ構造とすることにより収束させることができ、様々な焦点位置、焦点数についてのレンズ構造の計算を実現した。この成果は国際会議ICMAT2019において、Development of An Ultrasonic Focusing System to Assist Cerebral Infarction Treatment Using Topology Optimizationと題して発表予定である。 計画においても、トポロジー最適化の数値計算はかなり大きな計算になると考えていたが、新たな脳-頭蓋骨-外部媒体を考慮したホログラフィーによるフネレルレンズの設計法を得たことで簡略な手法でのデバイスの実現のブレークスルーを見出した。計画ではマイクロ流路に液体金属を注入する必要があると考えており、また、頭部表面での超音波の反射の大きさに対する対策を講じる必要があったが、モデル計算により頭部外側を脳、水と物性の同等な媒体で覆うことにより、空気の導入によりレンズを形成でき、同時に頭部表面での反射を抑えることができることを見出しており、2つの大きな課題を同時に克服できた。これらの成果は国際会議ICMAT2019において、The Fundamental Design of an Adaptive Ultrasonic ens by Means of hononic MetaStructures Application of MultiFocus Frenel one lates Designed by Holographic Techniqueと題して発表予定である。 以上のように、順調に進捗している。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度においては、トポロジー最適化によるレンズの設計、ホログラフィー法によるフネレルレンズの設計、簡易モデルによる超音波の反射、共鳴特性の計算、3つのアプローチを行った。その結果、トポロジー最適化以外のアプローチで2つのブレークスルーが得られた。したがって、2019年度においても、3つのアプローチを独立に進め、それぞれのアプローチから得られた知見を他のアプローチに反映しながら進めていく。 トポロジー最適化法では、まだ、頭蓋骨を入れた計算ができていない。今年度より、本研究内容を含むメタマテリアル設計を目的とした基盤研究Aの計画が名古屋大学の松本敏郎教授との共同研究で始まる。その際導入される大型計算機を用いてトポロジー最適化のによるレンズ形状の最適化を行う。また、本研究予算で大学院生を雇用し、有限要素法を用いて、ホログラフィー法に依るマルチ焦点などの音響フネレルレンズの設計を行う。こちらも現在所有するワークステーションでは用いる周波数の計算が行えないため、より能力の高いワークステーションを導入予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
有限要素法を用いたフォノニックレンズの設計を行う予定で、大学院生を雇用したが、プログラミングに時間がかかり、雇用時間が長時間となった。また、本格的数値計算の開始が遅れ、導入予定の高性能ワークステーションの購入も遅れた。2018年度中は既存のワークステーションを用いて実行しており、どの程度の能力が必要かを精査していた。2019年度中に必要な能力の高性能ワークステーションを導入予定である。また、外国出張を計画していたが、2019年に2件の国際会議の発表が既に決定しており、繰り越すこととした。
|