研究課題/領域番号 |
18K04028
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
植田 毅 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30251185)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 点状散乱体 / クロスバースイッチ / 配置最適化 / フォノニックレンズ / 超音波 / 積分方程式法 |
研究実績の概要 |
有限要素法を用いたシミュレーション・ソフトCOMSOLによる音響ホログラムを用いた経頭蓋レンズの設計について、脳深部における集束特性を改善するために、多層メタマテリアル構造として設計を試みた。この計算は十分な精度ではあるものの、集束特性の最適化や3次元モデルでの計算は適時性を実現するには、計算時間やメモリ容量の制約のため難しいと判断した。そこで、水と同じ特性を持つ媒質で頭部を覆い、その中にクロスバースイッチを導入し、適時適所的に微細な気泡を発生させることにより、アダプティブなフォノニックレンズを実現できることを示した。この手法では容易に3次元化が可能で、実用的な計算時間での3次元系の形状最適化のシミュレーションが期待できる。 頭蓋内の焦点で音場が極大になり、それ以外の頭蓋内では音場が小さくなるように散乱体の配置を最適化するが、これまで初期状態を音響ホログラムにより決定していた。 令和3年度より、初期状態による散乱体の最適配置の収束性について詳しく調べた。その結果、初期状態に依らずほぼ同じ計算時間で同じ結果に収束し、散乱体がない状態を初期状態とすることができることを示した。この成果は第34回計算力学講演会で発表した。 その初期状態から、頭蓋骨を円形としてモデル化し、頭蓋内の様々な点での集束特性を調べ、入射方向に垂直方向には回折限界まで集束していることを確認した。この成果は計算数理工学シンポジウム2021において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水と同質のゼリー状物質内にクロスバースイッチを導入することにより水泡を発生させる構成するレンズを念頭に、計算コストが小さいシンプルなモデルとして、格子状に配置した点状散乱体により構成されたレンズを考案し、実用的な波長で頭蓋内の焦点で音場が極大になり、頭蓋内の焦点以外の点では音場が小さくなる条件により散乱体の配置を最適化することにより、焦点が頭蓋内のどの位置にあろうとも、照射波の向きに垂直な方向には入射波長の半分の幅、即ち回折限界まで集束されることを示した。 また、これまでは散乱体の配置を最適化する初期配置を収束が速いであろうと考え、音響ホログラフィーにより決定し、その後、最適化手続きを行っていたが、現在用いている最適化手法では初期状態に依らず、ほぼ同じ計算時間、同じ最終は位置に収束することが確認され、初期状態を散乱体が何もない状態から始められるようになり、大幅な計算時間の短縮を実現した。 計算時間の短縮と十分なレンズ性能を確認でき、この点、順調に進捗していると言える。他方、既に、この手法の3次元化に取り組み、定式化を終え、プログラムの動作確認中であった。3次元系では計算時間がかかり過ぎるため、計算ソフトウェアを変更して新たにプログラムを組み直す予定であったが、プログラミング補助者を雇用できず、開発が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
点状散乱体を格子上に配列した音響レンズモデルを用いて、散乱体が何もない状態から始め、円形頭蓋内にある点状焦点において音場が極大となり、頭蓋内の焦点以外の点において音場が小さくなる条件により、非常に高速に散乱体の最適配置を決定できることが確認されている。2022年度は、頭蓋骨の形状が集束特性に与える影響を調べる。また、多焦点、また、ある程度幅を持った領域への照射についての特性を調べる。 形状については、円形から楕円形に変更し特性を調べ、また、標準的な頭蓋骨の形状データを用いて頭蓋内への集束特性を調べる。また、これまで頭蓋骨も点状散乱体を並べてモデル化しているが、頭蓋骨を周りと異なる材料として、境界要素法を用いて解析することも考慮する。 現在、多焦点、有限な大きさの焦点のレンズの設計を行っているが、散乱体に対する焦点位置により集束特性に差がみられるため、どのような配置の焦点の組み合わせについても、焦点での場の強さが同じになるように、最適化に用いる評価関数のそれぞれの焦点に関する項の重みの設定方法を確立する。 3次元化した系のプログラミングは既に終了しているが、現在使用しているソフトウェアでは実行が遅いため、コンパイラ型プログラミング言語への移植が必要である。プログラミング補助者を雇用し、プログラミングを進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在2次元系のシミュレーションをMathematicaを行っているが、3次元系の数値解析には計算速度が十分ではないため、fortranもしくはC++への移行を考えており、2021年度にプログラミング補助のための人件費を使用予定であったが、大学感染制御部による大学独自のキャンパス内警戒レベル4が発動されたため、行うことが困難となり、次年度に繰り越した。 また、成果発表予定のであったICMAT2021(シンガポール)が開催延期となり、第34回計算力学講演会(CMD2021) 講演会(札幌)、計算数理工学シンポジウム2021(松山市)において成果発表したが、いずれもオンライン開催となったため、旅費が未使用となった 2021年度執行していなかった助成金を2022年度に開催される国際会議、計算数理工学シンポジウム、物理学会等の旅費、学会参加費として使用することとした。
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