本研究の目的は、真空圧によって剛性を調節できるジャミング機構の力学モデルを構築し、より高性能な要素の開発を行うことであった。近年、柔軟なロボットに対する関心が高まり、柔軟、軽量、単純な構造であるジャミング機構を利用した研究が盛んに行われている。しかし、ジャミング機構が剛性を発揮するメカニズムの理論的なモデル化は未だなされておらず、試行錯誤的に材料や構造を選定しているのが現状である。 これに対し本研究では、材料と構造を変えたジャミング機構の試作と評価を行う中で、空気を抜くと曲げ変形が生じて、同時に剛性が増加する構造を新たに見出した。これまでのジャミング機構は剛性が変化するだけであるため、ロボットのように利用する際にはアクチュエータと組み合わせる必要があった。これに対し、発案した構造は単体で可変剛性機能とアクチュエータとしての機能を利用できるので機構を単純化することができる。この機構を用いたロボットハンドを開発し、学術誌に論文を発表した。また、この機構から発想を得て、空気を抜くことで物体形状に巻き付く新しいロボットグリッパーを開発した。このグリッパーについては特許申請し、学術誌に論文を発表した。さらに、薄型の積層タイプのジャミング機構では、伸縮性を持たせると剛性が低下する問題があったのに対して、メッシュシートを積層することで、伸縮性と剛性を併せ持つ新しい構造を考案した。このように新しい高性能な要素の開発については多くの成果を得ることができた。一方、ジャミング機構の力学モデルの構築に関しては想定どおりには進まず、材料の塑性変形、摩擦など評価が難しい問題が明らかとなり、実際の剛性とモデルとの差異が残った。今後は、精緻なモデル化ではなく、設計に役立つ知見の蓄積を行う計画である。
|