本研究では,ブロックチェーン上の仮想通貨取引とスマートコントラクトの実行による分散型PV余剰電力取引システムを提案し,実証実験によりスケーラビリティや信頼性の評価を行なう。研究実績を研究計画時に策定した3つの項目ごとにまとめる。 A) 分散型PV余剰電力取引システムの「実世界との融合手法の提案」では,実世界上の一般送配電事業者が配電系統の混雑制約を考慮した取引の可否判定を実施し,ブロックチェーン上で取引を行うシステムの設計を行なった。個人間で電力取引を自由に行う場合,配電制約を逸脱する可能性があるため,最適潮流計算を利用した取引の制御が必要である。このとき,その処理をブロックチェーンネットワーク上で行うのは,金銭的・時間的コストの双方から現実的ではない。従って,情報レイヤにおいても,複雑処理をブロックチェーン外部(オフチェーン)に委譲した上で,ブロックチェーン内部(オンチェーン)と相互作用させるアーキテクチャーを提案した。さらに,ブロックチェーン上で電力取引を行う場合,電力をスマートコントラクトの一種であるトークンで表し,システムに組み込む必要がある。しかしながら,現在一般的に使用されるERC20などのトークン規格は,トークン所有者が自由に送信・消去が可能であり,余剰電力トークンとして用いるためには不適である。そこで,送信・消去について所有者の権限を制御可能なペナルティトークン規格を応用した電力トークンの設計を行なった。 B) 分散型PV余剰電力取引システムの「スケーラビリティの評価」は,2019年度にて,研究室内のEthereumを用いたプライベートネットを用いた数値実験を行ない,学術論文として公刊された。 C) 分散型PV余剰電力取引システムの「合意形成アルゴリズムの提案」では,項目A)の実施内容である,オラクルを応用した外部システムの構築方法を提案することで実施している。
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