本研究では,高回転仕様で設計された永久磁石同期電動機に対する位置センサレス制御法について,広範囲な速度域で安定動作する制御法の開発を行った。よく知られているように,始動を含む低速域での位置センサレス制御においては基本波のS/N比が低下する問題から高周波信号重畳が必須であり,これによって騒音の問題が発生する。以上を踏まえ,本年度は低速域での位置推定性能を大幅に改善することができるオールパスフィルタを用いた手法を基本とし,条件付きながらも従来法では不可能であった高周波信号重畳レスでの位置センサレス始動法を確立した。 方針として,オールパスフィルタの設計がボード線図を用いた定常性能の観点からなされていることに着目し,オールパスフィルタを内包する位置推定器が始動直後に定常状態となり得るための方策を検討した。この結果,位置推定器に含まれる4つの積分器に適切な初期値を与えれば始動性能の改善が見込めるものと判断し,初期回転子位置を引数とする各初期値の設定アルゴリズムならびに始動性能を改善する追加制御系の設計法を開発した。さらに,推定磁束のオフセットにより生じる電源周波数に同期した位置推定値脈動や固定子巻線を集中巻とした永久磁石同期電動機に対して生じる位置推定値の6次調波脈動を低減する簡易な補正法を開発した。 以上は実機実験によりその性能を評価している。本手法によれば,停止時の回転子位置推定において高周波信号重畳をわずかな時間だけ必要とするものの,定格負荷以下の有負荷状態において高周波信号重畳を必要としない安定な位置センサレス始動が可能となり,かつ位置推定値に含まれる電源周波数成分ならびに6次調波成分を抑制した制御性能と静音化を両立する位置センサレス制御法を実現できる。
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