近年,洋上風力発電の導入に向け,多端子直流送電システム(多端子HVDC)の開発が行われている。将来的に普及した場合,これらは拡張および相互接続され,多端子HVDCによる基幹送電系統(直流系統)の構築に至る可能性も考えられる。しかし現状では,こうした直流系統が,基幹送電系統の要件を備えたものであるか否かが明らかではない。本研究では,多端子HVDCを拡張および相互接続することで,広域運用可能な基幹送電系統を実現するための基本概念の提示と検証を行うことを目的に,実施内容1:直流系統の構成法の検討,実施内容2:直流系統の制御・保護技術の開発,実施内容3:交直変換器の制御技術の開発,について取り組んだ。 本研究では,短期的な実用化のための直流遮断器を用いない直流系統と,中長期的な実用化のための直流遮断器を用いた直流系統について検討を実施した。これらの基本回路構成を考案し,またこれらの直流系統に事故が発生した際の制御・保護技術の開発を行った。そして,シミュレーションおよび実験に基づきその検証を実施した。また,直流系統に用いるような大容量の交直変換器が連系しても,交流系統側の電力品質を維持できる見込みを得られた。加えて,スケールダウン構成の直流系統および交直変換器を構築し,実験による原理検証を実施した。これらの成果は学術論文にとりまとめ,国内外の学会において報告した。 こうした概念は体系的に整理された例はなく,学術的にも意義は大きい。本研究成果は直流系統の構築方法を明確化するもので,今後導入される多端子HVDCを,将来の直流系統への拡張を見据えて設計できるようになり,長期に亘る設備の有効活用を可能にする。
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