研究課題/領域番号 |
18K04100
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
神谷 淳 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (00224668)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高温超伝導体 / 遮蔽電流密度 / 有限要素法 / 高速多重極法 / H-行列法 / 最適化 / 前処理技術 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は高温超伝導体中の遮蔽電流密度の時間発展を評価するための高速・高精度解析技術を開発し,同技術を用いて超伝導応用機器の設計支援ツールを製作することである.先ず,遮蔽電流密度を高速かつ高精度に解析するために,H-行列法や高速多重極法による大規模連立非線形方程式の数値解法,行列要素の高速計算法,高精度特異積分法を開発する.次に,これらの数値解析技術を遮蔽電流密度や超伝導体周辺電磁界の解析に応用する.
本年度は,超伝導リニア加速(SLA) システムの加速性能解析に上記数値解析技術を実装した.SLAシステムでは,水素ペレットを運搬する容器を加速するために,ペレット容器にHTS膜が装着されている.電磁石による生成磁場中をペレット容器が運動する間,HTS膜中を遮蔽電流密度が流れる.この遮蔽電流密度と印加磁場の相互作用により,ペレット容器は加速される.因みに,ペレット容器は永久磁石によって浮上しているため,HTS膜の垂直方向にのみ運動する.簡単のため,SLAシステムは軸対称であり,電磁石は複数のフィラメントから構成されると仮定する.
本年度研究では,遺伝的アルゴリズム(GA)に基づくon-off法を用いて,SLAシステムの加速性能を最大化するように電磁石中の電流分布を最適化した.その際,最適化法として,重み付きGAとNSGA-IIを採用した.その結果,殆ど同じ加速性能を示す準最適な電流分布(パレート最適解)は複数個存在するが,それらの電流分布は全く異なることが判明した.また,準最適な加速性能を達成するには,必ずしも全フィラメントに通電する必要がない.さらに,電流分布を最適化すれば,一様な電流分布の場合と比べて加速性能が約1.3倍まで向上した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,高温超伝導体中の遮蔽電流密度の時間発展を解析する高速・高精度手法を考案し,同手法を用いて超伝導応用機器を解析する.具体的には,研究期間内に達成する目標として,3つ段階を設定している.先ず,「方法論開発フェーズ」では,幾何学的モデル化と物理的モデル化を行うことにより,混合状態下の超伝導体を記述する数理モデルを構築する.次に,「高性能化フェーズ」では,高速多重極法やH-行列法を用いて遮蔽電流密度の支配方程式の初期値・境界値問題を解くための数値シミュレーション・コードを開発する.最後の「工学的実証フェーズ」では,超伝導応用機器中の遮蔽電流密度の時間変化を定量的に評価する.
本年度は,第2段階の「高性能化フェーズ」を完了し,第3段階の「工学的実証フェーズ」として,高温超伝導リニアカタパルトを用いた超高速ペレット射出装置の加速性能を解析し,電磁石電流分布の最適化も行った.これは,「工学的実証フェーズ」を20%近くまで進めたことを意味している.それ故,現在までの研究状況は当初の計画以上に進展していると言っても過言ではない.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,「方法論開発フェーズ」,「高性能化フェーズ」,「工学的実証フェーズ」の3つの段階を当初設定していた.本年度は,「高性能化フェーズ」を完了し,「工学的実証フェーズ」として,高温超伝導リニアカタパルトを用いた超高速ペレット射出装置の加速性能解析を行った.また,同加速性能解析において,電磁石電流分布の最適化も行った.
今後の研究では,超伝導磁気浮上システムにおける動的電磁力,超伝導送電線の交流損失,磁気遮蔽装置(例えば,炭素線治療用超伝導回転ガントリー中のパッシブ超伝導コイル)の遮蔽性能の何れかを定量的に評価する.また,超高速ペレット射出装置の設計を支援するための最適化シミュレーション・コードの開発も行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,可視化専用コンピュータとしてApple社製iMacの購入を計画していたが,これに関係する費用を別の研究費で支出したため,助成金に約13万円の残金が生じた.
なお,約13万円を翌年度分として請求した助成金と合わせることにより,本年度11月にイタリアのピサで開催されるCEFC2020に参加するための旅費として使用する予定である.
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