研究課題/領域番号 |
18K04109
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高橋 芳浩 日本大学, 理工学部, 教授 (40216768)
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研究分担者 |
塩野 光弘 日本大学, 理工学部, 教授 (30206057)
高野 忠 日本大学, 理工学部, 研究員 (80179465)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 非接触電力伝送 / スリップリング / 共振特性 / 高効率電力伝送 |
研究実績の概要 |
電界結合型非接触スリップリングの実現を目指し,最適な入力電圧,周波数,容量およびインダクタンスなどについて検討を行った.また,検討結果を基にコンデンサおよびコイルを試作し,固定構造において電力伝送実験を実施し伝送効率を測定した. 本スリップリングは回転体間の空隙により構成される容量,コイル,負荷抵抗から成るLCR回路の共振周波数を用いて電力を伝送するものであり,構造の小型には入力信号の高周波数化が求められること,また回転に伴う容量値変動を考慮すると低いQの共振特性が求められることから,高電圧伝送が必要であることを確認した.一方,現在入手可能な高周波・大電力電源の1つである,低域遮断周波数200kHz, 最大供給電圧/電流42Vrms, 20Armsのバイポーラ電源を用いて,伝送周波数を100kHzとして安定した電力伝送が可能となる各素子定数について設計を進めた.なお今年度は,1対のLCを用いた固定構造(回転運動しない構造)を対象に設計した.共振時のL, C端子電圧を低減するためには大きな容量の使用が必要である.ただし,大容量化に伴う空隙間隔の縮小は絶縁破壊電圧の低下を引き起こす.これらを考慮した結果,極板間隔0.4mm以上の条件で22nF以上の容量を実現できれば,上記電源を用いて100Wレベルの電力伝送が可能になることを導いた. そこで,極板間隔0.5mm,最大直径10cm,長さ16cm程度の多重同軸円筒型コンデンサを設計・試作した結果,容量23nFのコンデンサを得ることができた.また,共振コイルを試作し,30W程度の電力伝送実験を行い,伝送効率95%以上で非接触電力伝送が可能であることも確認できた.以上の結果より,電界結合型非接触電力伝送の有効性を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標は,電界結合型非接触電力伝送に最適な電源電圧,周波数,各素子定数などの基本設計,および回転運動をしない構造(1対のLC回路による固定構造)における電界結合型電力伝送装置の設計・試作および電力伝送実験の実施であった. 基本設計の結果,小型の伝送構造で安定した電力伝送を実現するには,より高周波・高電圧の入力を用いる必要があること.大容量のコンデンサを使用することによりL, Cの耐電力性能の緩和が可能となり,かつ素子定数の変動に対する許容度も増大することなどを明らかにした.また,本研究費で購入した高周波・高電圧のバイポーラ電源を使用し,周波数100kHzで100W程度の電力伝送を行う際に必要となるL, Cの素子定数について,大気の絶縁耐圧なども考慮して検討を行った.その結果,22nFの容量を極板間隔0.4mm以上の条件で作製できれば,極板間電界は大気の絶縁破壊電界の1/5以下となり,安全に安定した電力供給が可能になることを明らかにした. 上記の設計指針に基づき,極板間隔0.5mm の条件で23nFのコンデンサの設計・試作を行った.その結果,多重積層(40層)同軸円筒型コンデンサにより,容量値22.9nF,直列抵抗0.01Ω以下,耐圧1kV以上が得られることを実測により確認した.更に,リッツ線を用いて半径57.5mm, 37.5回巻きのコイルを試作した結果,100kHzにおいて98.4uH,直列抵抗0.3Ωとなることを確認.これらを用いて,負荷抵抗50Ωの条件で電力伝送を実施した結果,電力伝送効率95%以上で30W程度の非接触電力伝送が可能であることを確認した. 以上,電界結合型非接触電力伝送の基本設計,固定構造における試作および電力伝送実験を実施した結果,電界結合型非接触電力伝送により高効率な電力伝送が可能であることを明らかにし,当初の目標をほぼ達成した.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,1対のLC回路により構成した固定構造を用いて電界結合型非接触電力伝送の基本的検討を行った.ただし,電力伝送効率は各素子の直列抵抗から予測される値よりも小さいことも確認された.今後,効率低下の原因を究明し更なる高効率化を目指す.また,非接触スリップリングを実現するためには2つのコンデンサを用いて固定部と回転部を機械的に絶縁する必要がある.その際,必要となる容量値はこれまで検討したものの2倍の値が必要になる.今後,多層櫛形電極の採用など,コンデンサの構造改善を図ることにより大容量化について検討する.また送信電力の増大に伴い,共振時にL, Cに印加される電圧は増大し,内部抵抗による発熱などが問題になることが予想される.そこで,100W以上の電力伝送実験を行い,各素子で消費される電力について詳細な評価を行い,耐電力性について検討する.これらの検討を基に,電力伝送装置の改良を行い,電源電圧や周波数が電力伝送効率に及ぼす影響など,詳細について検討を行う.更に,回転可能であり,かつ回転に伴う容量変動が抑制可能なコンデンサの構造についても検討を行い,電界結合型非接触スリップリングの試作,電力伝送実験を行う. 以上の結果より,電界結合型非接触エネルギー伝送システムとしての最適設計手法を確立する.また,1MW超の大電力伝送を可能とするシステムを設計し,要求される構造体の規模や耐電力性などについて具体的な検討を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に本予算にて購入したバイポーラ電源,電力測定装置,ファンクションジェネレータ,試作用材料により,当初計画した非接触電力伝送装置の試作および測定の実施を完了することができた.なお,試作用材料の一部は研究室内に残存していた端材を流用することにより賄った.一方,来年度はコンデンサの大容量化を実施する予定であり,計画以上の試作用材料費が発生することが予想される.そのため,今年度予算の一部(15,000円程度)を次年度に繰り越し使用することとした.
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