太陽光発電を大量導入した再生可能エネルギー社会の実現および電力需要の増加に対応するため,電力ケーブルをはじめとする電力機器の大容量化および高信頼化が進められている。また現在主流となっている交流電力送電をHVDC送電に置き換えることができれば,充電電流等による損失が払拭され,エネルギー損失を小さくすることが可能になる。しかし電力機器に使用される固体絶縁材料では,HVDC印加時に空間電荷が材料界面等の欠陥に蓄積し局所電界が集中する箇所が弱点になる可能性があるため,空間電荷蓄積と絶縁破壊の強さは密接な関連があると考えられている。HVDC送電システムの安定動作のために,固体絶縁材料の空間電荷特性や絶縁破壊特性などの直流電気絶縁特性を定量的に検証することが必要である。今年度は,電気機器の絶縁部に3Dプリンタを用いて作成したアクリルエラストマー試料を適用することを想定し,その構造異方性が電気伝導および空間電荷の蓄積に及ぼす影響を調べた。試料の積層方向は,シート面に対して0°,90°(以降それぞれ,試料H,試料Vとよぶ)と制御することにより成形された。また積層面を含まない試料も作成した(試料N)。この試料に1-10kV/mmの電界を5分間印加した状態で,空間電荷観測を行った。 結果から,試料厚さ0.5mmの試料N, V, Hにおける空間電荷分布は積層界面がない試料Nと積層界面が印加電界に対し平行な試料Vは,陰極前面に正電荷が蓄積し,積層界面が印加電界に対し垂直な試料Hは陽極付近に正電荷が蓄積することが分かった。 研究期間全体を通じて実施した研究成果として,次の結果が得られた。空間電荷特性は,界面が電界方向に垂直である場合に,正電荷が蓄積しやすいが,試料に流れる電流値は,積層界面の方向によらず,ほぼ同じ大きさを示すことが分かった。
|