研究課題/領域番号 |
18K04122
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
木村 雄一 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (90334151)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 平面アンテナ / マイクロストリップアンテナ / マルチバンドアンテナ / 周波数可変アンテナ / バラクタダイオード |
研究実績の概要 |
本研究の目的はマルチバンド平面アンテナである多リング形マイクロストリップアンテナの素子上にバラクタダイオードを直接装荷することにより、複数の周波数で利用でき、かつ、電子的な共振周波数の制御を可能とする新しい平面アンテナを提案し、その諸特性を明らかにすることである。 令和元年度は一層の誘電体基板で構成されるバラクタ装荷周波数可変多リング形マイクロストリップアンテナについて以下の検討を加えた。はじめに、放射素子である複数のリング形素子とこれらの素子を励振するためのL字形の給電プローブが一層の誘電体基板上に配置されたアンテナについて検討した。次に、構造の簡易化のため、バラクタダイオードにバイアス電圧を印加するためのバイアス回路のうち、負極側のバイアス回路をリング形素子と地導体を短絡するビアに置き換える構成法を検討した。さらに、リング形素子と地導体を短絡するビアを用いるとリング形素子の面積を半分に削減することができる。そこで、この片側短絡によるアンテナの小型化について検討した。 そこで、上記の検討項目に関して、各々リング形素子を2素子配置した一層構造の2周波共用周波数可変平面アンテナを試作した。設計周波数は3GHz及び4GHz近傍とし、供試基板には比誘電率2.6、厚さ2.4mmのPTFE基板を用いた。各リング形素子のバイアス電圧を0~10Vの範囲で変化させて各種特性を測定した結果、誘電体基板を一層としても二層構造と同等の特性が得られること、負極側のバイアス回路をビアに置き換えても特性は維持されること、ビアを用いたアンテナの小型化については、小型化による利得の低下が見られたものの周波数制御特性の変化は僅かであることが確認された。 以上のことから、一層の誘電体基板を用いたバラクタ装荷多リング形マイクロストリップアンテナは周波数可変平面アンテナとして良好な特性を示すことが明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の研究計画は、一層構造の誘電体基板を用いたバラクタ装荷周波数可変多リング形マイクロストリップアンテナを設計し、その周波数制御特性および放射特性を明らかにすること、さらに、このアンテナの構成の簡易化と小型化を検討することであった。はじめに、バラクタダイオードを装荷したリング形素子とLプローブを同一面に配置した一層構造の周波数可変アンテナについて検討した。その結果、Lプローブの寸法とリング形素子の間隔を適切に設定することにより、バイアス電圧を変化させてバラクタを装荷したリング形素子の共振周波数を変化させても良好な整合特性が得られること、反射量-10 dB以下かつ利得3 dBi以上の比帯域は約10%が得られること、2周波共用とした場合は2周波をほぼ独立して制御可能であること、共振周波数を変化させても安定した放射パターンが得られること等が示された。次に、このアンテナの構造を簡易にするため、バイアス回路の削減について検討した。これまでの構成では、バラクタダイオード1個に対して正負の2個のバイアス回路が必要となるが、リング形素子と地導体をビアで短絡させると負極側のバイアス回路が不要となる。このアンテナを試作した結果、バイアス回路の一方を削減してもほぼ同程度の特性が維持されることが確認された。さらに、負極側のバイアス回路をリング形素子と地導体を接続するビアに置き換えることより、リング形素子の面積を半分に削減することができる。この小型化された周波数可変アンテナを試作した結果、素子面積の削減に伴う約1~2 dBiの利得の低下と構造が非対称となったことによる放射パターンの若干の傾きが見られたが、周波数可変範囲は同程度であることが確認された。これらの特性は周波数制御マルチバンド平面アンテナとして優れたものであり、本年度の研究の進捗状況は当初の目標を達成し、十分な成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、一層の誘電体基板を用いたバラクタ装荷周波数可変多リング形マイクロストリップアンテナの更なる小型化である。これまでの検討において、本アンテナはリング形素子の零電位面にリング形素子と地導体を短絡するビアを設置することにより、リング形素子の面積を半分に削減できることが示された。面積を半分に削減されたリング形素子はLプローブを中心として左右の2個の素子に分割される。このとき、左右の2個の素子は先端が短絡された1/4波長共振器として各々独立して動作するため、分割された2個の素子のうち一方を削減することができる。そのため、このアンテナは本来のリング形素子の面積の1/4に小型化することが可能となる。一般にアンテナの小形化は動作帯域の減少や利得の低下が懸念されるため、このリング形素子の面積を1/4に小型化した場合の周波数制御特性および放射特性を明らかにする。 次に、バラクタ装荷周波数可変多リング形マイクロストリップアンテナの円偏波への応用として、リング形素子の各頂点に計4個のバラクタダイオードを装荷した周波数制御円偏波アンテナについて検討する。リング形素子の対角の頂点に装荷された2組のバラクタダイオードはリング形素子の直交する共振モードに各々作用するため、直交する共振モードの共振周波数を独立に制御可能である。このとき、2組のバラクタダイオードのバイアス電圧を適切に設定することにより、直交する共振モードを等振幅かつ位相差を90°となるように制御すれば円偏波の周波数制御平面アンテナが実現できる。そこで、このアンテナを周波数可変円偏波アンテナとして動作させることができるバイアス電圧の条件を明らかにする。また、周波数制御円偏波アンテナとしての周波数制御特性および放射特性について検討する。
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