研究課題
符号化と復号化に起因する遅延を数理的に解析するには、符号器と復号器を数学的関数(写像)として捉える必要がある。情報理論的観点では、写像としての符号器・復号器の存在をもって所望の通信が可能であるかどうかを判断する。さらに情報理論的観点では、情報伝達の通信の際に発生する遅延は送信者と受信者の状態の違いを表すものであることから、送信内容と受信内容の間の一種の歪みとみなすことができる。すなわち遅延とは特別な歪みなのであって、通信における歪みを解析することが遅延の解析につながる。令和4年度に得られたもっとも重要な成果は、符号語長の分布に関して新しく導入した二項関係(一種の大小関係)に基づく情報源符号化定理を証明したことである。基本的な無歪み符号化に加えて歪みのある符号化についても定理を証明できたことは非常に大きな進歩である。この定理は従来の結果を一般化した結果であり、従来の定理では符号語長の基準ごとに符号を構成していたのに対し、本研究で得られた定理では情報源に対して最適な符号をひとつ構成すれば自動的にその符号によってあらゆる基準を満たすことができることが明らかになった。研究期間全体を総合すると、遅延の解釈として2通りがあることから、それぞれの解釈において大きな成果が得られたと言える。まず、遅延をコストとみなした場合の解析について、前年度までに確率的コストを用いたコスト制約付き通信路符号化定理を証明した。そして本年度においては上で述べた通り、歪みのある情報源符号化定理を証明した。情報源符号化定理と通信路符号化定理は情報理論を構成する双璧であることから、情報理論的観点を網羅する成果が得られたと言える。
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IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences
巻: E105.A ページ: 345~352
10.1587/transfun.2021TAP0002