研究課題/領域番号 |
18K04148
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
林 和則 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (50346102)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 劣決定線形観測 / スパース性 / グループスパース性 / 離散性 / IoT |
研究実績の概要 |
本年度の研究では,SOAV (sum-of-absolute-value)最適化に基づく離散値ベクトル再構成の性能の理論解析を行った.昨年度の研究で得られた, CGMT (Convex Gaussian Min-max Theorem)を用いた解析手法によるボックス制約付きのSOAV最適化手法(Box-SOAV)の大システム極限における特性(シンボル誤り確率や平均二乗誤差)に対して,信号処理の側面から解釈を与え,その結果に基づいたアルゴリズム中のパラメータの決定法を提案した.さらに,SOAV最適化のアプローチの特性を改善するために,これまで検討してきたL1ノルムなどの凸関数に限定せず,非凸のスパース正則化関数を利用した離散値ベクトル再構成手法を検討し,ADMMや主・双対近接分離に基づくアルゴリズムを開発した.i.i.d.通信路行列などの基本的な環境での数値計算により,その有効性を明らかにした.また,昨年度に開発した複素信号領域におけるグループスパース性を利用した離散値ベクトル再構成法をIoT環境での信号検出問題に適用し,その有効性を明らかにした.この成果をまとめた国際会議論文はAPSIPA ASC 2019においてBest Special Session Paper Awardを受賞した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により,研究実施計画において予定されていた「課題1. SOAV最適化の理論限界の解明」と「2. 複素離散値ベクトル再構成の応用」の両方について,期待通りの成果が挙げられたと言える.特に,非凸のスパース正則化項を利用した離散値ベクトル再構成問題を定式化し,これに対して低演算量のアルゴリズムを与え,実際に良好な特性を達成したことは特筆すべき点である.さらに,これまでこの研究で開発した複素数の離散値ベクトルや複素スパース離散値ベクトル,複素ブロックスパース離散値ベクトルの再構成のためのアルゴリズムが,実際の無線通信で使用される信号フォーマットや無線通信路環境をモデル化した観測行列に対しても有効であることを示せたことは,応用の観点からも重要な成果であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに検討した,離散値ベクトルの再構成に関する研究で得られた知見をもとにして以下のような課題について取り組む.
これまでに開発した非凸のスパース正則化項をもちいた離散値ベクトル再構成手法は,L1など凸の正則化項を用いたものに比べて良好な再構成性能が得られることを確認しているが,再構成に必要とされる演算量が大きくなるという問題があった.このため,特に観測行列のサイズが大きくなるMIMO-OFDM通信のような問題への適用において障害となると考えられる.このため,アルゴリズム自体の再検討と計算機上の実装(GPUの効率的な利用など)の両面から離散値ベクトル再構成の処理時間の短縮を図る. また,これまでのところ非凸のスパース正則化項を用いるアプローチの特性評価は,素朴なi.i.d.ガウス通信路における評価に留まっていることから,より現実的なIoT環境での特性評価,さらにはグループスパース性に対する非凸正則化の適用なども今年度の検討として考えられる.
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