研究実績の概要 |
従来のビーム走査アンテナは, 移相器を装着した多数の直線偏波放射素子から構成されている. 放射ビームを特定方向に向けるためには, 各放射素子からの放射界の位相を移相器によって変える必要がある. この場合, 放射ビーム方向がアンテナ正面からずれるにつれて, 利得(感度)が落ちる等の不具合が生じる. つまり, 従来の走査アンテナでは, ビーム方向が異なると同じアンテナ特性が再生されないという欠点があり, 特性再生可能アンテナ(RecANT)とは言えない. さらに付け加えるならば, 直線偏波放射素子を使用した通信では,「送信アンテナと受信アンテナの偏波面を同方向(平行)にしなければならない」という制約がある. これに対し, 円偏波放射素子を使用した通信では「偏波面を合わせる必要がない」ことが学術上から既に知られている. この優位性があるにもかかわらず, 円偏波走査アンテナの構築がむずかしい故に, これまでのところ, ビーム方向が変わっても同じアンテナ特性(放射パターン, 入力インピーダンスなど)を再現する円偏波用特性再生可能アンテナの実現例は皆無に近い. 換言すれば,「新概念を構築し, 移相器を用いないで, 円偏波用特性再生可能アンテナ(RecANT)を創造することは可能であろうか?」との学術的問いが生じている現況にある. 上記の問いに答えるために前年度(2018年度)は円偏波メタマテリアル細胞の創造に力を注ぎ, この細胞から成る線状メタラインを考察し, 基礎データを収集した. この成果をもとに今年度(2019年度)は, 円偏波線状メタラインから成るアンテナ(RecANT)を構築し, その特性を解明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年計画の第二段がほぼ予定通り完了した. 複数本のメタラインから成るアンテナ(RecANT)を構築し, その特性を解明した. 具体的に述べると, (1)線状メタラインを放射状および渦巻状に配列し, この場合の放射特性を考察した. (2)複数本の線状メタラインの給電状態を変化させ, 放射特性の再生化を検討した. (3)前記(2)の場合の円偏波放射パターン, 円偏波率, 円偏波利得, 入力インピーダンスなどの諸特性を収集した. (4)複数本の線状メタライン間の相互影響を散乱定数(S-パラメータ)から評価した. なお, 成果の一部は学術誌及び国際会議等で発表し, 関係者からの良い評価を得ている. 以上により, 最終目的である小型RecANT創造のための資料が整った, といえる.
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今後の研究の推進方策 |
以下の項目を実施する予定である. (1)線状メタラインを折り曲げることにより, 超薄型RecANTの小型化を達成する. (2)この場合, 給電法を変えても, 同じアンテナ諸特性を再現できるように構造を最適化していく. ただし, 最適化にあたり, アンテナ表面積は今年度(2019年度)の十字形RecANT表面積の約50%程度に縮小化されているものとする. (3)最適構造RecANTに於いて, 次のaからdの周波数特性を明示する. a.円偏波放射パターン, b.円偏波率, c.円偏波利得, d.入力インピーダンス. (4)以上の周波数特性を実験により確認するために, RecANTを製作する. (5)利得4dBi以上, 円偏波帯域15%以上を有する超薄型・小型RecANTの実現を最終目標とする.
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