研究実績の概要 |
多層繊維強化複合材では枚数や配向の違いによって弾性率(テンソル量)が変化するため, 均質な等方性弾性体の場合と比較して精密な欠損像の再構成が困難であった. そこで, 材料の弾性率の違いによらない性質を用いた亀裂の撮像法として, 寺本らは, 「動的せん断ひずみ解析法」を提案している. 当手法は, 互いに直交する向きの面外せん断歪みの間の線形従属性を用いて散乱波と入射波の波面が重畳する領域を検出するものである. しかしながら, 2つ以上の独立した平面波が重畳すると, 亀裂が存在しないにも関わらず大きな背景値が出力され, 亀裂の有無の判別が困難になる問題点がある.本年度は, この問題点を解決することを目的として, 亀裂で散乱された波動場が点波源拘束偏微分方程式に従うことを利用し, 点波源を取り囲む領域の位相速度ベクトル場の発散(divergence)にもとづく欠損の検出手法を提案することができた. まず等方性弾性体薄板を伝搬する反対称0次(A0)モードラム波の 波動場における点波源拘束偏微分方程式にもとづき, その位相速度ベクトル場の発散を再構成する仕組みを明らかにしている. また, 微小円筒欠損周りの散乱波の厳密表現から, 欠損近傍での面外せん断ひずみの挙動を解析し, 提案手法が, 欠損領域の境界を再構成する能力を評価している. さらに, 前述の動的せん断ひずみ解析法が出力する背景値と提案手法のそれとの違いを明らかにしている. また概念実証モデルによる実験にもとづき, 提案手法が欠損を検出し, その形状を再構成する能力を評価している. つづいて, 提案手法を, 直交異方性弾性体の薄板材の欠損検出に適用させた結果を示している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に示したように, 点波源拘束偏微分方程式に基づく欠損検出手法を確率することができた. また, 本研究の成果をまとめると以下の通りである. (1)A0モードラム波をもちいた非破壊検査において, 点波源拘束微分方程式にもとづき位相速度ベクトル場の発散を再構成することにより, 欠損の近接領域を撮像をできることを理論的および実験的に明らかにした.(2)提案手法は,検査対象表面上の個々の観測点近傍における検査対象表面の法線方向と検査対象表面に沿った向きに関する面外せん断ひずみと法線方向の変位との間の相互相関と法線方向の変位の自己相関のみを利用しているため, A0モードラム波の速度分散性に左右されずに, 再放射源を特定することができることが確認された.(3)提案手法がCFRP中の欠損検出に適用できることが, 実験を通して確認された.(4)今後は, 異方性弾性体での点波源拘束微分方程式を導出し, 本手法を普遍性のある非破壊検査手法として確立する予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
進捗状況のところで述べているように, 今後は, 異方性弾性体での点波源拘束微分方程式を導出し, 本手法を普遍性のある非破壊検査手法として確立する予定である. 現在, 平織の炭素繊維強化樹脂(CFRP)の板材に対して, 実験を行っている. 平織のCFRPでは, 点波源から伝搬する波面の等位相面の形状が, 菱形の形状を呈している. 繊維の方向には位相速度が大きく, そうでない向きには位相速度が小さいためである. このような場では位相速度の大きさが異方性があるため, 従来の等方性媒体でよく用いられているTOF, TOFD法が役に立たない. そこで, 本研究で提案した点波源拘束偏微分方程式に基づく欠損検出手法を適用できるのではなないかと予想している 提案手法では, 位相速度の大小に依存していないこと, また、信号処理が局所的であることから、本手法が適用できると考えている.
|