研究課題/領域番号 |
18K04181
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
今池 健 日本大学, 理工学部, 准教授 (10548093)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | QCM / フルディジタル / 位相検出 / 瞬時周波数 |
研究実績の概要 |
数ナノグラム以下の付着物質の質量を検出できるQCM(水晶振動子微量秤)の測定時間短縮と測定精度を向上するため,これまでとは全く異なる方式のフルディジタル位相検出QCMに関する研究を遂行した.本研究で提案したフルディジタル位相検出QCMでは,センサ部となるデュアルQCM水晶振動子を使った2台の発振回路と,水晶発振器から出力される信号をADコンバータによってサンプリングし,その後の全処理をディジタル信号処理で行う点に特徴を有する.そして,質量の検出方法として,周波数そのものを直接測定するのではなく,ディジタルダウンコンバージョンにより周期波形を位相に変換し,両位相差の時間変化の微分によって瞬時周波数差に変換する. 提案手法の動作原理が正しいことを確認した昨年度に引き続き,今年度は同一のQCMセンサを用いて差周波を用いたビート法と提案手法の性能比較を行った.数ナノグラム以下の微小質量を正確に振動子の電極上に与えることは困難であることから,センサと直列に挿入したバラクタダイオードの容量を変化させることでQCMの発振周波数を低下させ,疑似質量負荷とした.結果,周波数変化の検出性能について従来型であるビート法と比較し時間分解能で16倍,周波数分解能として7桁以上優れていることを実証した.ビート法は周波数分解能向上のために周波数カウンタのゲート時間を長くしなければならないが,提案手法はADコンバータがサンプリングした2サンプルがあれば瞬時周波数を算出できるため,測定時間短縮についても確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
提案手法の検出性能については従来型QCMと比較し時間分解能で16倍,周波数分解能として7桁以上優れていることを確認したが,当初の予定に遅れが生じた理由として,提案手法で算出した瞬時周波数に一定のオフセットが生じることがあり,その原因究明に時間を要した.その原因については,瞬時位相を算出するための演算において,数値計算ライブラリの有効桁が十分でないことを解き明かした.現状ではセンサ信号を一旦PCに取り込んでから浮動小数点精度で演算を行うオフライン処理での性能であり,当初の予定ではFPGA上のオンライン処理で整数演算をリアルタイムで行う予定であったという点でも遅れが生じているが,原理的には提案手法の有効性は確認されており,FPGAへの実装で起こりうる不具合は予想できているため大きな問題とはならない.
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今後の研究の推進方策 |
PC上で演算を行っていた高負荷なディジタル数値演算ブロックをFPGA上に実装しリアルタイム計測に対応させる.実装には本研究費で購入のXILINX製開発環境VIVADOを用いてKintex7-410Tにビットストリームファイルを書き込む. この実装の手順としては,ディジタルダウンコンバージョン機能,デジシメーション機能の順に機能を追加する.高速演算部分はハードウェア上で実行し,位相演算および周波数への変換については,ロジックセルに余裕があればFPGA上で行うが,位相演算と周波数への変換で演算精度を劣化させないためにPC上で実行する可能性もある.FPGAボードからPCへのデータ転送にはGigabit EthernetまたはPCI Expressを使用する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
使用する2つの振動子を独立して安定的に動作させるには電気的アイソレーションを十分にする必要があったため,シールドや高周波で高性能な増幅器が必要であるとして回路作製費用を確保していたが,実際には購入した振動子の一部が不安定なものであり,その他多くの振動子については回路部にコストをかけなくても安定して動作することが明らかとなった.回路系の使用額が減ったほか,学会発表が国内のみとなったため次年度使用額が生じた. 使用しているFPGAボードとADコンバータを駆動する基準クロックの性能向上がより高精度な測定を実現できることから,高精度水晶発振器に使用する予定である.
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