研究課題/領域番号 |
18K04185
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研究機関 | 仙台高等専門学校 |
研究代表者 |
林 忠之 仙台高等専門学校, 総合工学科, 教授 (80310978)
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研究分担者 |
立木 実 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (50318838)
小森 和範 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (50354296)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | SQUID / SQUID顕微鏡 / 走査トンネル顕微鏡 / プローブ / 磁束トランス / 磁気像 / 空間分解能 / パーマロイ |
研究実績の概要 |
SQUID磁気顕微鏡と走査トンネル顕微鏡(STM)の特長を併せもったSTM-SQUID顕微鏡において、高透磁率プローブが試料から局所的に集束した磁束を、漏洩することなくSQUID磁気センサに伝達させる新技術を確立し、飛躍的にSQUID磁気センサの検出磁場感度ならびにこれに直結する磁気顕微鏡の空間分解能を向上させる装置開発を進めた。 新奇な磁束検出機構は、磁束リターンガイドとシームレス超伝導磁束トランスからなるものである。試料から局所的に磁束を集束するファインなパーマロイプローブに同じパーマロイの磁束リターンガイドを接続して、試料との間に磁気閉回路を構成するデザインとした。室温のパーマロイを、液体窒素冷却下の超伝導テープを素材とする超伝導磁束トランスの片方のループに貫通させることとし、SQUID磁気センサに他方のループを配置させることとした。 ①SQUID顕微鏡ヘッドの先端部のアクリル製真空窓、②プローブと磁束リターンガイドを真空封止するアクリル部品、③パーマロイプローブ、④パーマロイ磁束リターンガイド、⑤③と④を磁気的に接続するパーマロイ治具、⑥①から⑤を一体化させる樹脂製ホルダ、⑦片方のループに貫通穴を加工した超伝導磁束トランスからなる磁束検出機構部のすべてのパーツを組み上げ、結合実験をスタートさせた。ヘッド先端部の真空窓の機械的強化、室温下の構成と低温下の構成とのクリアランスの確保が課題となっており設計変更を進めている。 製作した超伝導トランスについては、ホールセンサを用いて磁束伝達の様子を定量的に確認することができた。 また、有限要素法シミュレーションにより、磁束リターンガイドの形状と伝達特性の関係を継続して確認している。電流を流したミアンダラインが発生する磁場分布の検出を模したシミュレーションにより、従来法のプローブと本研究のプローブとの検出磁場振幅の差を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、STM-SQUID顕微鏡ヘッドの構成部品の組み立てを実施してヘッドを完成させ、基本動作を確認したのち、標準試料によるSQUIDの磁場検出感度を評価し、高温超伝導線材などの液体窒素温度下の試料の微細磁気構造評価を試みることとしていた。 試料から磁束を集束するパーマロイプローブに、パーマロイの磁束リターンガイドを接続して、試料との間に磁気閉回路を構成するデザインでは、室温のパーマロイを液体窒素冷却下の超伝導磁束トランスの片方のループに熱伝導を回避しながら貫通させなくてはならない。プローブとリターンガイドは磁気的に低抵抗で接続する必要がある。さらにプローブを通過する磁束は、試料から収束した測定対象磁束であるため、プローブに振動を与えるわけにはいかない。この磁気閉回路を実現するために真空下の限られたスペースに配置した樹脂製ホルダの製作に時間を有した。3Dプリンタで造形したホルダ内部にスプリングを採用したものが最終形となった。フォトリソグラフィーにより製作した超伝導磁束トランスの片方のループに貫通穴を加工することは膜剥がれも発生せず可能であった。 STM-SQUID顕微鏡ヘッドの動作試験に移行した。①アクリルの真空窓のストレスによりプローブと超伝導磁束トランスとの直交性が得られていない、②安定した磁束ロック動作(磁気計測)のためのSQUIDの磁束変調特性の電圧ピークが不足している、③室温下の構成と低温下の構成とのクリアランスが必要という課題を抽出した。 これらの課題解決のためにはプローブの構成要素の再設計も選択肢であり、本研究で目指す磁気閉回路の性能と、プローブ形状との関係を有限要素法シミュレーションに明らかにしている。 今年度は、SQUID顕微鏡の動作を確認して、STMとの同時計測により試料の微細磁気構造評価を試みることには至らなかった。このことから、やや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
シームレス超伝導磁束トランスと磁束リターンガイドを配置したSQUID顕微鏡ヘッドを開発し、SQUIDの検出感度と空間分解能の評価実験を進める。 2021年度前半には、SQUID顕微鏡ヘッドの動作試験で抽出した、①アクリル真空窓のストレスの問題、②SQUIDの磁束変調特性の電圧ピークの問題、③室温下の構成と低温下の構成とのクリアランスの問題を解決していく。①については真空窓の強度の確保で回避できる。当初設計では、パーマロイのロッド直径を2mmとしている。これによるクリアランスの確保が厳しくなっているため、1.5mmと1mmのロッドのプローブの採用を検討する。プローブの微細加工を迅速に行うため、研究代表者の所属機関の技術専門職員へマシニング加工の協力を得る。プローブの形状変更により、試料から収束して磁気閉回路を周回する磁束量が大きく変化することは問題となる。この有無を有限要素法シミュレーションにて調べる。 ②については、SQUIDヘッド先端部の冷却性能の再確認を進める。当初使用を予定していなかった現有のもう1台のSQUIDヘッドを採用し、並行して実験を進める。必要であればSQUIDの製作プロセスを導入して、良好なSQUIDを製作する。 課題をクリアしたのち、STM-SQUID顕微鏡の基本動作を確認し、標準試料によるSQUIDの磁場検出感度を評価し、高温超伝導線材などの液体窒素温度下の試料の微細磁気構造評価を試みる。高温超伝導SQUID顕微鏡の評価を終えたならば超伝導薄膜中のボルテックスの高解像描出のために、液体ヘリウム温度動作の低温超伝導SQUIDをセンサとしたSQUID顕微鏡への発展について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を遂行するにあたり、必要消耗品が当初計画より余剰した。抽出した課題を解決するために、パーマロイ部品ならびにアクリル部品等STM-SQUID顕微鏡ヘッドの構成部品の再設計と製作が必要であるので次年度使用額へ留保した。
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