本課題は,容器内の液体の振動現象であるスロッシングを主な対象として,近似された偏微分方程式モデルに基づいた制御則設計および状態推定器の構成的な設計法を確立するものである.研究期間全体では,(i) 容器の最終的な位置を考慮しない液面のみのフィードバック制御則設計,(ii) 壁面での液体の情報に基づく容器内部の液面分布推定,(iii) 容器位置と液面の同時制御則設計,(iv) (iii) で提案した PDE フォワーディングの発展について取り組んだ. (i) では,壁面での液体の情報をもとに容器を揺らす速度を決定し,スロッシングを抑制するフィードバック制御則をバックステッピング法を用いて導出した.このままでは,最終的な容器位置を指定できないため,(iii) の研究へとつながることになった. (ii) では,(i) で考察した制御則設計の双対問題を考えることで,壁面の液体情報をもとに容器内の液面分布を推定するオブザーバを設計した.オブザーバ設計においては,観測値との推定誤差フィードバックを行う場所を任意に選ぶことができるため,(i) の完全な双対問題とはならず,オブザーバ設計単体で意義をもつことになった. (iii) については,(i) では液面の運動をモデル化する偏微分方程式のみに着目していたが,容器運動のモデルである常微分方程式を一緒に考えることで,スロッシングと容器位置を同時に制御するフィードバック制御則設計を行った.特に,この二つの異なる種類の方程式を含むモデルに対して,PDE フォワーディングという手法を新たに提案して設計を行った.最終年度では,ある2次の評価関数に対する逆最適性も導いた. 最後の (iv) では,純粋な制御工学的な研究として,(iii) で提案した PDE フォワーディングをさまざまなシステムへと適用し,一般的な制御則設計手法として発展させた.
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