研究実績の概要 |
世の中に存在する重要なシステムの多くは,その入出力関係が静的ではなく動的なシステムである.すなわち,各時刻における出力は過去の入力の影響も受けて定まるものとなり,それは過去の入力が未来の出力に影響を及ぼすことを意味する.動的システムを扱う制御系の研究においては,このような過去の入力から未来の出力への影響の大きさを定量的に評価することが重要となる.従来,そのような定量的な評価値はハンケルノルムと呼ばれ,線形時不変系を中心に研究されてきた. ところが,近年のディジタル機器を利用した制御のもとでは,ディジタル機器の周期的動作に伴い,制御系は時不変系ではなく周期時変系としてとらえる必要が生じる.そのような視点に沿って従来のハンケルノルムの考え方を適切に拡張することは,ディジタル機器を利用した制御系の性能評価を正しく行い,よりよい制御を達成する上で重要となる. 本研究の最大の特徴は,上記の評価を適切に行うために準ハンケル作用素,準ハンケルノルムと呼ばれる概念を導入した点にあり,ディジタル制御系のみならず周期時変系も対象として後者のノルムを評価する手法を確立した.加えて,前者の作用を通して,このような周期時変的性質をもつ系に対してハンケル作用素と呼ぶべきものが定義可能であるか(存在するか否か)について,とくにL2, L∞をそれぞれ入力空間,出力空間とした場合を中心として深い理論的帰結を得た.とくに,このような空間をとった場合については,よく知られているH2制御との間に重要な接点が生じる.このことを踏まえて,ディジタル制御系におけるH2制御および準ハンケルノルムを論じる際にそれぞれ現れる作用素とそのノルムの間に成立するさまざまな定量的関係を明らかにした.
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