研究課題/領域番号 |
18K04208
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
末光 治雄 大分大学, 理工学部, 客員研究員 (50162839)
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研究分担者 |
小西 忠司 大分工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (00225468)
星野 修 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (00303016)
松尾 孝美 大分大学, 理工学部, 教授 (90181700)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | CAM光合成 / 信号分離 / 最適化手法 / ショ糖ホメオスタシス |
研究実績の概要 |
本研究では,CAM型光合成(ベンケイソウ型有機酸代謝)の単細胞生理学的モデル(4次微分方程式系)を制御対象として,周波数・位相制御系設計を非線形制御論の立場から研究してきた.本研究では,この結果を応用することにより細胞間の炭素フローを取り入れた生理学的光合成モデルをシステム制御理論を基に構築する.さらに,周波数や位相を光,温度,二酸化炭素濃度によって制御した場合に起きる細胞間同期現象の発生理由を制御理論的観点から解明することを試みている.特に今年度は,細胞同期の仕組に迫るために,実験データとシミュレーションデータの差をうめるための基礎理論に取り組んだ.CO2アナライザとインキュベータで測定できるのは,植物全体の二酸化炭素取り込み量である.このため,細胞単独の内部二酸化炭素濃度を算出することはできず,植物全体の平均化された内部二酸化炭素濃度が推定できるにすぎない.1昨年提案した,維管束による結合モデルを基に,多細胞同期に関して2つの仮説を立て,植物全体の二酸化炭素取り込み量の単細胞二酸化炭素取り込み量の時間遅れ信号の線形和モデルを提案し,実データからの推定を試みた.その意味で,測定が容易な外部二酸化炭素取り込み量から精密モデル内の内部状態やパラメータを推定する手法として,適応微分推定器を用いた慣性項付き勾配法を提案した.さらに,実験装置の立ち上げを行い,CAM植物であるキリンドリカによる二酸化炭素濃度の測定データを収集した.また,C3植物で提案されているショ糖ホメオスタシス数理モデルを参考に,CAM植物の数理モデルにショホメオスタシス機構を組み込んだモデルを提案し,その有効性を検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単一細胞の時間遅れ信号の線形和として植物全体の二酸化炭素取り込み量が合成されるという仮定を置き,時間遅れと線形和の係数を決定変数とする最適化問題に帰着し,適応オブザーバを用いた最適化器による推定を行った.提案した最適化手法により二酸化炭素取り込み量から2つ程度のパラメータを推定することは可能となった.しかしながら,より多くのパラメータを推定するために最適化手法の改善が必要である.また,作成した実験装置により植物の二酸化炭素取り込み量を測定しデータ取得をexcelで行い,ある程度の概日リズムの傾向を確認した.ただし,供給する二酸化炭素量が不安定であるため,実験装置の改良が必要となった.さらに,ショ糖ホメオスタシス機能の実現のために,デンプンの増減トレンドを検出し,その符号によりショ糖目標値を変化させるフィードバック機構を提案した.このモデルでは,佐竹らの時間遺伝子の位相シフトをフィードバックするモデルと異なり,代謝だけでモデルを構成することができる.なお,昼間の時間が短時間の場合には,夜間デンプンを使い切ってしまう現象がでているため,さらなるフィードバックモデルの改善が必要と考える.
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今後の研究の推進方策 |
最終年となる今年度は,以下の点について研究を推進する. (1)二酸化炭素供給量の安定化のために実験装置の改良を行う. (2)多変数最適化手法を用いて,測定した二酸化炭素取り込み量の実験データの信号分離を行う. (3)全年度提案したショ糖ホメオスタシスモデルである,デンプンの増減トレンドを検出し,その符号によりショ糖目標値を変化させるフィードバック機構に日長依存性を持たせたモデルを提案する.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験装置で追加で必要になった小型インキュベータ,マスフロー制御装置が当該年度内に購入できなかったために次年度購入とした.さらに,新型コロナウィルスの影響で,予定していた学会の講演発表が中止になったため,旅費に残が出てしまったので,次年度の旅費や物品費に繰り越すことになった.
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