本研究は、人の呼吸システムの数理モデルを構築するための手法を確立し、人工呼吸療法を実施しているときの臨床データをもとに各々の患者さんの呼吸特性を推定し、それぞれの患者さんに適合した換気条件を自動的に設定する仕組みを作り上げ、患者さんにとって安全安心の人工呼吸を可能にする人工呼吸管理の新しい枠組みを開発することを全体の目的としている。 今までの研究において、人工呼吸システムの数理モデルとして肺エラスタンスとレジスタンスを多項式表現型連続時間モデル、肺エラスタンスとレジスタンスをニューラルネットワークでモデル化したニューラルネットワーク表現型連続時間モデル、また肺エラスタンスとレジスタンスをファジー論理でモデル化したファジー表現型連続時間モデルの枠組みを提案し、さらにそれぞれについて人工呼吸の測定データから患者の呼吸モデルを推定するためのオフラインおよびオンラインのパラメータ推定法を提案している。 これらの成果を踏まえ今年度では、医療の世界でもますます人工知能の手法が拡散浸透している現状を踏まえ、分散型ネットワークにおいて入力にノイズを含む(計測データに誤差がある)場合にネットワークモデルのパラメータを推定することを考え、拡散バイアス補償拘束の最小二乗法アルゴリズムを提案した。このアルゴリズムでは、入力がノイズに汚されているネットワークで適応フィルタリングする分散推定の考え方に基づいており、新しいコスト関数を導入することにより効果的に入力ノイズの影響を軽減できた。このような推定アルゴリズムは、ニューラルネットワーク型呼吸モデルの推定に有用である。 また、人工呼吸管理において呼吸の質を評価する数値指標および、換気条件の変化が指標に対する影響について検討し、有益な知見が得られた。
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