研究課題/領域番号 |
18K04224
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
アーサン ナズムル 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (00422345)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ワイドギャップCuGaS2半導体 / スプレー化学熱分解成膜 / 三元同時スパッタ成膜法 / 中間バンド型太陽電池 |
研究実績の概要 |
本研究では、次世代高効率太陽電池として考案されている中間バンド型太陽電池(以下、IBSC)の光吸収材料としてワイドギャップカルコパイライト構造のCuGaS2(以下、CGS)半導体母体の研究を進め、磁性不純物添加により、不純物バンド物性を調べることを目的としている。 昨年度はまず、太陽電池の電極層となるモリブデン(Mo)薄膜のスパッタ成膜を実施し、伝導率の高い良質な結晶性のMo電極層(を作製することができた。そして、Moをコートしたガラス基板にCGS母体層を成膜し、その評価を進めた。 本年度は、太陽電池構造設計をし、その構造作製に向けて、三つの課題改善策を進めた。(イ)作製した構造の下部層の伝導特性評価では、CGS光吸収母体層及び下地のMo電極層間でショットキーバリアが生じたが、その低減に向けて、CGSの二段階成膜法を実施したことで良質なオーミック接触も得られた。(ロ)上層部として(Zn,Cd)Sのバッファ及びAlドープしたn型ZnO窓層のスパッタ成膜及び伝導・光学特性評価を進めた、(ハ)太陽電池構造を完成し、初めての動作実証ができた。 太陽電池動作において主要課題となるのはCGS膜上でバッファ層のバンドオフセットや物性が電池特性にどう影響与えるかである。カルコパイライト構造の太陽電池ではバッファ層としてCdSを用いることは一般的であるがCdSにZnの添加が電池動作にどう影響を与えるかの評価を進めた。そのため、二つの構造を作製し、比較評価を進めた。一つの構造ではCdS薄膜のバッファ層、もう一つではZnを添加したCd0.8Zn0.2S(以下、CZS)のバッファ層を成膜した。膜厚はおよそ50nmと設計した。太陽電池の評価ではCdSバッファ層にZnを添加することで太陽電池特性が向上した結果が得られた。そして、ワイドギャップCGS母体材料を太陽電池として動作の実証が本年度の主要成果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、次世代高効率太陽電池として考案されている中間バンド型太陽電池(以下、IBSC)の光吸収材料としてワイドギャップカルコパイライト構造のCuGaS2(以下、CGS)半導体母体を検討し、磁性不純物Crの添加により中間バンド効果を調べることを目的としている。 そのため、CGS母体材料を利用した太陽電池の作製評価を進め、当該年度でその動作実証ができたことが大きな成果である。すなわち、薄膜物性の評価だけではなく、その電池動作評価も進めてことで物性解明に向けて、大きな進展が得られた。 特に、太陽電池の評価ではCdSバッファ層にZnを添加することで太陽電池特性が向上した結果が主要な鍵である。この結果の解析のため、電池構造のドリフト拡散計算を実施した。Znの添加がCdSの電子親和力の低減に影響を与えることで伝導帯オフセットが小さくなり、光生成電流増大をもたらすという計算結果が得られた。この計算結果は実験結果とほぼ一致しており、ヘテロ構造のバンドオフセットの改善により太陽電池のさらなる改善が期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度(最終年度)の推進方策では中間バンド型太陽電池(以下、IBSC)デバイス作製及び評価を推し進める計画である。そのような方策をとることでワイドギャップのCGS母体における磁性不純物であるCrのドーピング効果の評価及び中間バンド型不純物バンド物性解明が期待できる。実施計画は次のような実験項目からなる。 (1)昨年度では太陽電池動作実証ができたものの、その低いエネルギー変換効率が課題となる。低キャリア移動度及び非発光欠陥が課題となっており、これらを改善することで変換効率向上が期待できるから。そのため、結晶粒形成過程の解明が鍵となり、アニール効果が伝導及び光学特性にどのような影響を与えるかを調べることでCGS結晶粒形成過程の解明を目指す。 (2)そして、Cr添加がCGS薄膜物性や太陽電池動作にどのような影響を与えるかを調べることCrのドーピング効果の評価及び中間バンド型不純物バンド物性解明を目指す。
|