大きなRashbaスピン軌道結合を有する半導体チャネルと強磁性体金属電極との複合構造からなるスピン電界効果トランジスタの実現を目指して、我々はGaAs(111)B上MnAs/InAs系ヘテロ構造を利用したスピンバルブ素子に関する研究を進めている。 最終年度である今年度は、ようやくGaAs(111)B上のMnAs/InAsおよびMnAs/GaAs/InAsへテロ構造を成長条件を変えながら分子線エピタキシャル(MBE)成長することができた。残念ながら系統的な試料作製には至らなかったが、MBE成長中の電子線回折(RHEED)から格子緩和についての知見を得ることができた。また一部の試料については、ようやく透過電子顕微鏡(TEM)によるヘテロ界面付近の評価を進めることができ、RHEEDとの比較も行うことができた。GaAs挿入層に関しては、RHEEDでは1-2nmで格子緩和がみられるが、TEMではInAsとの界面にミスフィット転位が入っていることが確認され、またInAsとの界面から2nm付近で部分的に双晶構造が入っていることも確認された。またMnAsに関しては、RHEEDでは1nm程度で格子緩和がみられるが、TEMでは界面にミスフィット転位や積層欠陥が入っていることが確認された。加えて、マスクレスリソグラフィー装置を用いて、一部の試料をポスト構造に微細加工し、GaAs挿入層の有無による縦方向の電気伝導特性の比較を行った。GaAs挿入層のないものはいわゆるオーミック特性を示すのに対して、約3nmのGaAs挿入層を有するものは非線形性を示し、トンネル障壁として機能することが実験的にわかった。
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