研究課題/領域番号 |
18K04229
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
有元 圭介 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (30345699)
|
研究分担者 |
山中 淳二 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (20293441)
澤野 憲太郎 東京都市大学, 工学部, 教授 (90409376)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 半導体結晶 / キャリア移動度 / 電子デバイス |
研究実績の概要 |
電子機器で使用される半導体素子においては、微細化による高性能化に限界が訪れつつある。また、高性能化の代償として消費電力は増大傾向にある。IoT関連産業や自動車のハイテク化が進む中、半導体需要の伸びは必然であり、半導体デバイスの総電力消費量の更なる増大が懸念されている。太陽電池などの自然エネルギー源を活用する上でも、消費電力の抑制は必須である。半導体集積回路の電力消費への対策として、高移動度半導体材料の開発は重要な課題である。本研究では、高キャリア移動度を期待できる(110)面歪みシリコン薄膜の高品質化を目指している。(110)面歪みシリコン薄膜では、同じく高移動度材料であるゲルマニウムに迫る高正孔移動度が報告されている。その意義は、広く普及している低価格なシリコン基板上に高移動度半導体集積回路のプラットフォームを構築できることにある。しかも、表面平坦性・や結晶欠陥密度に大幅な改善の余地があり、それにより更に移動度を増大させることが可能である。本研究では、従来とは異なる薄膜作製プロセスについて研究を行い、結晶欠陥の低減と表面平坦性の向上を目指している。結晶欠陥は、歪み緩和バッファ層であるシリコン・ゲルマニウムの結晶成長過程で導入され、主なものとしてマイクロ双晶がある。マイクロ双晶はシリコン・ゲルマニウム結晶の歪みを緩和する働きがあり有用であるが、その存在により表面平坦性が劣化してしまう。そこで、シリコン・ゲルマニウム層の歪み緩和プロセスにマイクロ双晶の形成を利用しない手法を開発する。具体的には、イオン注入法を用いてシリコン・ゲルマニウム層の歪み緩和を促進する、イオン注入歪み緩和法について研究を行う。平成30年度は、アルゴン・イオンをあらかじめ注入したSi(110)基板上にシリコン・ゲルマニウムを結晶成長し、結晶成長条件と結晶性の関係について調べた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イオン注入歪み緩和法では、アルゴン・イオンをSi(110)基板上にあらかじめ注入し、シリコン・ゲルマニウムの結晶成長を行う。シリコン・ゲルマニウムの結晶性に影響するファクターとして、イオン注入条件、結晶成長前の熱処理、結晶成長温度が重要である。現在、熱処理と結晶成長温度について調査を続けている。基礎的な実験として、結晶成長前熱処理と結晶成長を同じ温度で行った場合の結晶性を調べ、結晶欠陥形成に関する知見を得ることを目標としている。低温での結晶成長では、表面を終端している水素の脱離速度が低く、結晶成長が抑制される。一方、高温ではイオン注入により導入した結晶欠陥が回復するため、イオン注入法の効果が弱まることが懸念される。これらの要因に加え、Si(110)基板上へのSiGeの結晶成長では結晶欠陥形成過程が温度に強く依存することが分かっている。以上の3つの要素の競合が膜質の温度依存性を決める。実験に当たっては、Si(110)イオン注入基板、Si(110)イオン未注入基板、Si(001)イオン未注入基板上に同時に結晶成長を行い、比較した。 まず、500℃で熱処理・結晶成長を行った。この条件では、結晶成長開始時に表面の水素被覆率が高いため、結晶成長が阻害されることが懸念された。特に、(001)表面よりも(110)表面では水素の脱離レートが低いことが知られている。しかし、Si(110)イオン未注入基板において結晶成長していることが確認された。一方、Si(110)イオン注入基板に結晶成長した試料では、ラマン分光測定ではSiGeの存在が確認できるもののX線回折測定ではSiGeからの回折信号が得られなかった。このことから、多結晶が形成されていると考えられる。550℃でも同様の結果であり、Si(110)イオン注入基板上への単結晶成長条件は見出せていない。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、熱処理・結晶成長温度が結晶性に及ぼす影響を明らかにして行く。現在は両プロセスの温度が同じである場合について調べている。これまでのところSi(110)イオン注入基板上への単結晶成長が確認されていない。これは、イオン注入による基板表面の損傷が成長膜の結晶性に悪影響を与えているためと考えている。そこで次のステップとして、成長前熱処理温度を様々に変えてイオン注入損傷の変化と、膜質への影響を調べる。また、これまで得られた試料に関し結晶構造の解析を更に進め、プロセス条件が膜質に与える影響についてメカニズムの解明を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
装置の不調により、予定より試料作製が遅れております。試料作製と分析にかかる経費ですので、今後の研究の進捗に伴い配分額を予定通り使用してまいります。
|