研究課題/領域番号 |
18K04232
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
市村 正也 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30203110)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 太陽電池 / 酸化鉄 / 電気化学堆積 / 伝導型制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、酸化鉄薄膜を、メッキの技術である電気化学堆積によって作製し、それを用いた薄膜太陽電池を作製する。赤サビという遍在する材料を原料とし、電気化学堆積という簡便安価な手法で作製することで、究極に安価な太陽電池作製を目指す。2019年度までに、①FeSO4水溶液を用いた電気化学堆積によりFeOOH薄膜が得られ、それを空気中など酸化雰囲気でアニールするとFe2O3になること、②CuSO4を溶液に加えることでp型になること、③パルス電圧印加によりCuの分布が均一になること、④無添加薄膜とCu添加薄膜でpn接合太陽電池が作製できること、を見出した。2020年度は、太陽電池特性の改善を目指し、界面層の挿入、pn二層の連続堆積など新たな試みを行った。 これまでに作製した太陽電池は特に開放電圧がmV単位と小さく、整流性もよくなかった。これは界面に欠陥層が存在し、多数キャリア同士の再結合が促進されているためと考えられた。また、二層目の堆積時に、一層目が堆積溶液に溶解して組成が徐々に変化する境界領域ができている可能性も考えられた。そこで、一層目を化学的に安定な物質からなる中間層で覆い、その上に二層目を堆積した。中間層としてはAlOOHとMg(OH)2をためした。中間層がない場合、n型層を先に堆積すると整流性が得られないが、中間層を入れると整流性と発電が観測された。このように中間層に一定の効果は見られたものの、結果的に発電効率の顕著な増加は見られなかった。一方、pn二層の連続堆積は、取り組みを始めたところであり、今後重点的に続けていきたい。(今後の推進方策参照)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予定通り、2020年度は太陽電池の効率改善に重点をおいて研究を行った。中間層の材料、堆積方法を含め、種々の作製条件を変えて数多くの実験を行ったが、大きな効率改善にはつながらなかった。中間層の効果を見極めるという意味では研究は進展したが、高い効率の太陽電池を作るという最終的な目標に近づいたとはいいがたい。 もうひとつ取り組んでいる材料であるFeSxOyだが、2020年度は実験を十分に実施できなかった。研究体制の問題でもあるが、新型コロナ感染対策の結果、学生が実験を行う時間が大幅に減ってしまったことも影響した。pn二層の連続堆積も限られた回数の試行しかできなかった。 新型コロナ感染対策により、一年を通して実験回数が大きく制限され、また予定していた国際会議、国内学会参加もできなかった。その結果予算の消化も遅れた。そこで研究期間の延長を願い出ることにした。 なお、2020年度は、p型Cu添加酸化鉄のパルス堆積と太陽電池作製の結果をまとめ、論文を一編出版した。酸化鉄からなる太陽電池を報告した世界で初めての論文になる。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、酸化鉄太陽電池の低い変換効率は、薄膜それ自体ではなく、界面に主たる原因があると考えている。電気化学堆積では、二層目の堆積時に、一層目が二層目の堆積溶液に溶解する可能性がある。これは、一層目と二層目が違う物質であるため、二層目の堆積溶液と一層目との間に化学平衡が成り立たないためである。この問題の解決策として中間層を試したが、期待したほどの効果は得られなかった。そこで、もう一つの方策として、溶液を変えずにn型、p型の連続成長を試みる。まず無添加n型層を堆積、その堆積中にCuイオンを溶液に加え、連続してp型を堆積する。こうすれば、堆積の中断と空気雰囲気への暴露を避けることができ、新たな堆積溶液との非平衡による溶解も防ぐことができると期待できる。2020年度に行った実験により、堆積電流を止めずに行えば整流性と光起電力が得られることを確認したが、効率の改善には結びついていない。この方法に適した堆積電位・電流を探す必要があるし、攪拌の影響も調べる必要がある。2021年度には、多数の実験を重ねることで効率改善を達成したい。また、pn接合の作製方法として新規性があるので、論文発表を行いたい。 FeSxOyについては、滞っていた実験を再開し、p型伝導を示す堆積条件をまず把握したい。そしてFeSxOy/Fe2O3接合を作製したい。このヘテロ接合も過去に報告例のなく、新規なアイデアの提案として研究発表を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請では国内・国際会議参加を想定して旅費を計上していたが、新型コロナ感染のため多くの会議が中止となり、出張を行わなかった。また、緊急事態宣言に伴う出勤・登校の制限のため実験回数が減少し、消耗品の購入が予定より少なかった。 2021年度は堆積実験を多数予定しており、消耗品費などで比較的早期に予算執行を終えると予想される。またオンラインの国内会議に積極的に参加したい。
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