二元系金属酸化物と金属との積層構造が示す可逆性・不揮発性を有する抵抗変化素子として、本研究では主に酸化ニッケルと白金を用いた。酸化ニッケルの堆積条件を厳密に制御することによって、作製した素子に電圧を印加した際に量子化コンダクタンスが発現することが確認された。その後に電圧の極性を問わないノンポーラ型の抵抗変化として抵抗レンジの異なる二種類存在することも確認され、酸化ニッケルの結晶構造や微視的組成分布との相関も知ることができた。 一方で、作製装置の使用者が研究室をまたがるものであったことが仇となり、実験器具の一新を余儀なくされた結果、量子化コンダクタンスが発現する条件確立が極めて困難な状況に陥った。研究の根幹となる狙いの材料作製が容易でなくなったために非本質的な時間と大幅な労力を浪費する結果となった。真っ当な研究機関とはとても言い難い劣悪環境における人災でしかないが、時間の制約もあり当初の研究計画を大幅に変更する事態に陥った。 種々の工夫を試みた中で、作製した素子に還元雰囲気中での熱処理を施すことが、量子化コンダクタンスの発現に効果的であることが確認できた。基板となる下部電極の状態にもよるが、アルゴンまたは酸素雰囲気中での高温での熱処理では、電極剥がれや素子の意図しない変質が見られた。そのため、より低温で十分な還元効果が見込まれる水素雰囲気中での熱処理を試したところ、従来に比べて量子化コンダクタンスの発現確率の向上が確認された。反応性とはいえ物理的作用の強いスパッタだけでなく、その後に還元雰囲気での低温熱処理を施し化学的作用を導入することによって、酸化ニッケル中の粒界に偏析している酸素空孔のばらつきが抑制され、素子コンダクタンスの分布が小さくなった結果であるものと考えられる。
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