研究課題/領域番号 |
18K04235
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金島 岳 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (30283732)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Ge-MISFET / La2O2 / 原子マッチング / 結晶転位 / 基板欠陥 |
研究実績の概要 |
本課題で提案する,低温成長エピタキシャルLa2O3をゲート絶縁膜に用いたゲルマニウム(Ge)-MISFETは,熱的に不安定で比較的誘電率の低いGeO2層を用いることなく,原子マッチングにより低界面欠陥で直接Ge上に形成することから,更なる微細化にむけた酸化膜換算膜厚(EOT)の低減が可能であるだけでなく,単結晶ゲート絶縁膜上に高品質な薄膜をエピタキシャルに積層することも可能となるなど,新たなデバイス展開が期待される. このようなエピタキシャル成長させたゲート絶縁膜は,酸化による絶縁膜形成プロセスと異なり,基板洗浄後の表面がそのままゲート絶縁膜/Ge界面となるため,良好な特性を得るためには表面処理が重要である.そこで,ヨウ素溶液処理を提案し,界面の高品質化を実証したが,より効果的な表面処理を目指しヨウ素溶液の濃度を上げていくと,Ge基板表面にエッチピットが形成されることが分かった.これは,基板の平坦性を損なうだけで無く,エピタキシャル成長の阻害や電気特性の悪化が懸念されるため,原因を調べ抑制を検討した. 基板上に形成されたエッチピットは,その密度がヨウ素溶液の浸漬時間とともに飽和し,その値が一般的なGe基板の結晶転位などによる欠陥密度と同程度となることから,Ge基板の欠陥起因を示唆していると考え,実験的に確認した.Ge(111)基板の表面酸化膜を除去後,ヨウ素溶液0.5 mol/Lの溶液に浸漬するこことで形成された逆三角錐状のエッチピットの頂点直下を,透過型電子顕微鏡により観察したところ,明瞭な転位によるコントラストが確認出来た.ヨウ素溶液によるエッチングによるGe(111)基板のエッチピットは報告されておらず,ヨウ素溶液が表面終端だけでなく,Ge(111)基板の結晶転位欠陥密度を調べるためのエッチング溶液としても使えることを発見した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
直接接合エピタキシャルLa2O3ゲート絶縁膜と高い移動度をもつGeを用いたGe-MISFETの高品質化には,界面特性の向上が必須である.特に,提案している構造は,熱酸化やラジカル酸化など,基板を酸化させて形成する一般的なゲート絶縁膜と異なり,基板表面がそのまま絶縁膜/半導体界面となる.そのため,良好な界面を形成するためには,基板表面の修飾が重要である.良好な界面をもつエピタキシャルゲート絶縁膜を形成するための基板表面処理としては,高真空中でのフラッシングや界面バッファ層の形成などが用いられているが,前者は高温プロセスであること,また後者は直接接合の利点を阻害することから,本研究では表面洗浄および溶液による表面処理法に注目した. しかし,Ge基板は,Si基板と異なり表面酸化膜のエッチング方法についてもまだ確立されておらず,一般に表面酸化膜の除去に用いられている希フッ酸処理後の表面の濡れ性についても,十分な検討がなされていなかった.そこで,表面接触角から濡れ性を評価することで,改めてGe基板洗浄プロセスを見直した. 表面酸化膜をエッチングするためのフッ酸の濃度はこれまで1%としていたが,疎水性を得るためには10%で15分以上浸漬する必要があることが分かった.その後,HCl溶液に浸漬することで,HFのみの場合よりも大きな接触角が得られ,より疎水性が向上することが分かった.さらに洗浄後の接触角が界面準位密度と関係することも分かり,よりGe酸化膜のない清浄な表面の形成プロセスの開発が出来た. 表面接触角測定の有用性が示されたので,これまで提案している界面準位密度低減に有効なヨウ素溶液処理も,同様に最適条件の探索を行ったところ,条件によってエッチピットが形成されることが分かり,この原因が基板の結晶転位であることを実験的に明らかにし,Ge基板そのものも見直す必要があることが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,基板表面処理プロセスを改良することで,エピタキシャルLa2O3/Ge界面準位のさらなる向上を進めてゆく.表面接触角の測定から,これまで経験的におこなってきたGe基板洗浄における表面酸化膜のエッチングを定量的に確認できたことから,これを利用し,界面準位を低減させ,EOTを小さくするための溶液処理条件を探索する.さらに,これまで提案してきたヨウ素処理は,界面準位を低減させることも出来るだけでなく,濃度を高くすることでGe(111)基板の結晶転位を確認するエッチング液としても使うことが出来ることが分かったことから,現在使用している基板の結晶転位の評価を行う.Si基板は無転位で非常に品質の高いものが比較的容易に入手できるが,一般的に入手可能なGe基板は100から1000/cm2オーダーの結晶転位が含まれているにもかかわらず,これまで結晶転位を含めて基板の結晶品質に対しては注目をしておらず,転位による電気特性への影響や,低欠陥基板の使用による特性改善を検討する. さらに,小さなEOTを実現するためにはLa2O3/Ge界面付近に形成されていることが予想される比誘電率の低い反応層の抑制が必要である.まず,実際に界面に低比誘電率層が出来ているのかを,傾斜エッチングなどで調べる.そして,それらを抑制するための成長条件および表面処理方法について探究していく.本研究で用いているパルスレーザ蒸着法(PLD)は,スパッタや一般的な蒸着と異なり,パルス的に薄膜原料が供給される.そこで,予備的な実験であるが,レーザパルスに合わせて間欠的に酸素を供給出来るように装置を改良し,界面反応を抑制することを試みている.今後,供給時間や圧力,温度などを制御することで,PLDの特長を活かした成長が出来ないか検討し,最終的に,これら表面処理と成長方法の工夫から低EOT化を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大を受け,学会がオンラインとなり旅費の支出が無くなったことが大きな理由である.さらに,表面接触角によりGe基板表面処理プロセスのモニタリングを行ったが,例えばPLDのロードロック室に入れて高真空環境下であれば1時間程度放置しても,表面は変化しないと考えていたが,実際に調べると接触角が変化することが観察され,その原因の検討に時間を要したため,対外発表が学会発表にとどまり,論文としてまとめることが出来なかった.そのため,論文投稿費用が残ったため,次年度使用が生じた.なお,予定していた消耗品費,エキシマレーザのメンテナンス費用などは予定通り使用している. 次年度も,新型コロナウイルス感染拡大に伴い,学会はオンライン開催であることを予想し,予算を考えて使用していく.例えば,洗浄プロセスへのGe基板欠陥の影響など新たな知見が出たこともあり,それらを検討するための基板購入費に充当するなど,研究を促進させるために使用する.さらに,一部まだ不明なところもあるが,Geの結晶欠陥とヨウ素処理の関係や,接触角からGe表面の洗浄プロセスのモニタリングが可能であることや表面接触角と界面準位に相関が見られることなど有用な結果を得ており,これらの結果については速やかに論文として投稿し残予算を使用する予定である.
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