研究課題/領域番号 |
18K04237
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
田中 一郎 和歌山大学, システム工学部, 教授 (60294302)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 半導体コロイダルナノドット / 有機メモリトランジスタ / ペンタセン / 配位子 / 光照射 |
研究実績の概要 |
半導体コロイダルナノドットは大きさが数nmの半導体結晶(コア)の表面に有機分子が配位した無機・有機ハイブリッド材料である。本研究では、半導体コロイダルナノドットの単粒子層を作製し、それをフローティングゲート層(電荷蓄積層)に用いた有機メモリトランジスタの開発を行う。先行研究では、ペンタセンを有機半導体層に用いたメモリトランジスタを作製し、その伝達特性において最大ゲート電圧の20%以上の大きな閾値電圧シフトを得ることができた。しかし、閾値電圧シフト量が飽和するまでには数百秒の記録時間を要したため、記録時間の大幅な短縮が課題であった。 今までの検討から、長い記録時間を要する原因としては、ペンタセンの最高被占軌道(HOMO)のエネルギーがコロイダルナノドットの伝導帯底(Ec)のエネルギーより1 eV程度高いため、ペンタセンのHOMOからコロイダルドットのEcへの電子のトンネル距離が長く、トンネル確率が低いためと考えられる。そこで、この問題を解決する(トンネル確率を上げる)方法としては、(1)コロイダルナノドットのEcを下げる(2)ペンタセンのHOMOからではなく最低空軌道(LUMO)から電子をトンネルさせることが考えられる。 前者(1)を実現する方法としては半導体コロイダルナノドットに配位している有機分子を適切なものに交換することが考えられる。そのため、適当と思われる配位子材料の探索を行った。また、後者(2)を行うためにはペンタセンのHOMOに存在する電子を光照射によってLUMOに励起することが考えられる。そこで、白色光を作製したメモリトランジスタに照射しながら記録電圧を印加して、記録時間を測定したところ従来より一桁短縮されたことが分かった。また、同時に閾値電圧シフト量も3倍以上に増大した。さらに保持特性にも影響することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、初年度に半導体コロイダルナノドットの新規配位子材料を探索し、実際に配位子を交換する技術を検討し、その最適条件を明らかにする計画であったが、未達である。はじめは想定していなかったが、光照射による記録時間短縮効果が得られたことは予想外の大きな進展ではあった。しかし、その点を考慮してもやや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
光照射により、簡便にメモリトランジスタの記録時間を短縮できることが発見されたが、同時に閾値電圧シフト量が増大すること、保持特性に大きく異なる2つの時定数が存在することも明らかになった。これらの現象は、ペンタセンのHOMOからLUMOへ電子が励起されることだけでは説明できない。そこで、光照射効果のメカニズムを解明する。そのため、光照射効果の励起光波長依存性やコロイダルナノドットサイズ依存性を検討する。 光照射効果のメカニズムが解明されたら、コロイダルドットのEcを低下させるための新規配位子への交換を検討する。配位子交換の効果と光照射の効果を比較検討し、場合によっては両者の組み合わせにより、短時間でメモリに記録できるプロセス技術の開発も視野に入れる。
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