本研究では、有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層とゲート絶縁膜の間に半導体コロイダルナノドット(CND)の単粒子層を形成し、それをフローティングゲートとして用いる事により有機メモリトランジスタとして利用することを検討している。(ここではPbS CNDを用いている。)有機半導体にペンタセンを使用したメモリトランジスタでは、コントロールゲートに正電圧を印加してPbS CNDに電子を蓄積する事により、閾値電圧を大きくシフトさせることができるが、閾値電圧シフト量が飽和するまでに必要な電圧印加時間(記録時間)が300秒程度と非常に長いという難点がある。 このメモリ効果を説明するメカニズムとして、我々はコントロールゲートに正電圧を印加した時に生じる電界により、ペンタセンのHOMOからPbS CNDの伝導帯底(Ec)に電子がトンネルしてトラップされるモデルを提案してきた。このモデルに依れば、記録時間を短縮するためには電子のトンネル確率を高くする、すなわちそのトンネル障壁を薄くすることが重要である。そのために本研究ではPbS CNDのEcを低下させてペンタセンのHOMOに近づけることを検討した。Ecの深さはCNDの配位子の種類にも依存する。そこでまず、配位子をオレイン酸からテトラブチルアンモニウムブロムド(TBABr)に交換する事によってEcを低下させ、記録時間を50秒程度に短縮させた。次に、TBABrに配位子を交換する時に用いるPbS CNDを、コア径が2.5 nmのものから8 nmのものにする事によってさらにEcを低下させ、記録時間を10秒程度に短縮させた。最後に、ゲート絶縁膜を薄くして電界強度を1.6倍に高める事によってさらにトンネル障壁を薄くしたところ、記録時間は大幅に短縮されて1秒程度にまで短くなった。
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