研究課題/領域番号 |
18K04242
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
佐藤 井一 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 助教 (90326299)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | シリコンナノコロイド / シリコンナノ結晶 / フラッシュ光照射 / 結晶成長 |
研究実績の概要 |
令和元年度は、シリコン(Si)ナノ結晶を歪ませ、準安定結晶構造を形成させようとする試みの中、その端緒をつかむと共に、Siナノ粒子の結晶性を室温で向上させる方法も明らかにした。 株式会社ユメックスの協力を得て、紫外・可視・赤外域のフラッシュ光をチオール修飾Siナノ粒子膜に照射したところ、照射前はアモルファスSiナノ粒子膜であった塗布膜が、直径20 nm弱のSi結晶から成る膜に変化した。この結晶サイズは、出発材料であるアモルファスSiナノ粒子の直径とほぼ同じ大きさである。同様の結晶成長を熱処理で生じさせるには、700℃以上の加熱が必要であった。フラッシュ光照射によるSiナノ粒子塗布膜の結晶化に伴い、膜のガス検出特性および光検出特性が向上した。フラッシュ光照射は短時間(数十μsec)の処理であるため、Siナノ粒子膜の基板温度は室温(40℃以下)に保たれていた。このため、プラスチックなどの熱に弱い基板上でも、結晶性の良いSiナノ粒子膜の塗布形成が可能となった。上記研究成果の一部は学会で発表した。 フラッシュ光照射は、Siナノ粒子内に準安定結晶構造を形成する手法としても有望であることを確認した。直径約20 nmのブトキシ基修飾Siナノ粒子に対し、窒素雰囲気内で室温フラッシュ光照射をおこなった。フラッシュ光照射により成長した結晶構造は、主にバルクSiと同じダイヤモンド構造であったものの、一部の膜内にSiの高圧相に相当する結晶構造が観測された。このような高圧相のSiナノ粒子を大気圧下で作製することは本研究の目標の1つであるので、今後、高圧相出現条件をより明らかにしていくつもりである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メルカプトコハク酸修飾Siナノ粒子(直径10~20 nm)塗布膜にフラッシュ光照射をおこなうことで、膜の電気伝導性の雰囲気ガス依存性が大きくなること、および光導電性が高まることを確認した。このような特性向上は、フラッシュ光を窒素雰囲気内で行い、ランプの最大ピーク光強度を10~30 μJ/cm^2、パルス幅を50μsec以下とし、一回のみ照射することで得られた。複数回の照射をおこなうと、Siナノ結晶が酸化してしまい、結晶性および各種電気的性質が劣化した。 上記フラッシュ光照射の実験は、ナノサイズのSiに非平衡的な結晶成長をさせることになることから、Si内に準安定結晶構造の出現しやすい状況を作り出していると言える。ブトキシ基修飾Siナノ粒子を用いた実験では、フラッシュ光強度を高めることで、一部の試料内にSiの高圧相である「単位格子内に8個の原子をもつBCC構造(BC-8構造)」の出現が確認された。Siナノ粒子は主にボールミルによる湿式粉砕で作製しており、高圧相の出現は、フラッシュ光照射に加えて、Siナノ粒子の高エネルギーでの粉砕による高圧相のエンブリオ形成も関連している可能性がある。今後、その関連性を調べる予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
以下の二点を重点的におこなう。 第一に、チオール修飾Siナノ粒子膜を塗布形成し、フラッシュ光照射条件を変化させることで、電気伝導の雰囲気ガス依存性、光伝導性のさらなる向上を目指す。 第二に、大気圧下でSiナノ結晶内に高圧相を発生させるために、Siナノ粒子の作製条件、フラッシュ光照射による後処理条件を変化させ、最適な条件を見出す。アルコキシ基で表面修飾されたSi表面は格子歪みが生じやすいため、まず、様々なアルコキシ基修飾Siナノ粒子を用いて実験を始める。フラッシュ光照射処理については、窒素雰囲気の純度を高めた上で、複数回の照射でもSiが酸化されない環境を構築する。この時、基板温度も系統的に変化させる。得られたSiナノ結晶の結晶構造、光学的、電気的性質を調べる。 Siナノ粒子を数百mg収集し、化学自己集合により配列させることにより超格子構造を形成することを目指す。得られた自己集合膜について、電子顕微鏡による構造観察および発光特性(フォトルミネッセンス、エレクトロルミネッセンス)の評価をおこなう。 前年度の研究協力者であった学生が卒業したため、令和2年度から新たな学生に研究協力者として参加してもらい、上記研究を効率的に進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初の計画では、2020年3月末に外部機関で試料の結晶性評価をおこなう予定であり、そのための利用費と旅費を残していた。しかし、新型コロナウィルス感染症の収束が見られないために自粛した。 (使用計画)新型コロナウィルス感染症の収束後、外部機関で結晶性評価をおこなう費用に充てる。
|