研究に新たな展開が見られた。これまで、チオール修飾シリコン(Si)ナノ粒子、ゲルマニウム(Ge)ナノ粒子への光照射による構造・物性変化を調べてきたが、Siナノ粒子に関しては光照射によりメモリスタ機能を発現させることができることを見出した。これは、表面が硫黄(S)終端されていることが重要であった。チオール修飾Siナノ粒子の有機部分を昇華させてナノ粒子の最表面をドナー原子であるS原子で覆うことで、酸素分子の表面吸着・脱離に極めて影響の受けやすい電気伝導性が得られる。従来の水素終端Siナノ粒子では、酸素分子の吸着は(酸素分子の高い電子求引性のために)Si内に正孔を誘起させ、フェルミ準位が下がりp形半導体として電気伝導性がやや上がる傾向にある。これに対しS終端では、酸素分子がS原子の電子を強く吸引するためにS原子のドナーとしての働きが抑えられ電気伝導性が大幅に下がる。酸素分子が脱離してS原子がドナーとして働くようになると、Siナノ粒子は縮退したn形Siになる。S終端Siナノ粒子への光照射による酸素分子の脱離、光照射を止めることによる酸素分子の吸着を繰り返すことで、電気伝導性の可逆的な変化が確認され、この時の電流変化がメモリスタとして働くことが確認された。今後、本研究の成果を専門誌と学会で報告していく予定である。 当初計画していた親水性Siナノ粒子の格子配列化については、超遠心分離によりナノ粒子サイズを揃えたにもかかわらず、充分な格子成長が見られなかった。これは、粒子サイズが小さくなることで、格子成長に必要なファンデルワールス力が弱くなったためかもしれない。これを解決するには、Siナノ粒子を高濃度にドープして縮退した半導体にして金属的なファンデルワールス力の強さを発現させる必要がある。これは今後の課題としたい。
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