研究課題/領域番号 |
18K04243
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
野村 一郎 上智大学, 理工学部, 教授 (00266074)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サブバンド間遷移 / Ⅱ-Ⅵ族半導体 / 超格子 / ヘテロ接合 / ヘテロ障壁 / ショットキー性 / 光デバイス / 光導波路 |
研究実績の概要 |
サブバンド間遷移(ISBT)光デバイスの電流注入構造に着目し、ヘテロ接合における電圧電流特性について調べた。InP基板上にZnCdSeとMgZnCdSeのヘテロ接合素子を作製し、電圧電流特性を評価した。その結果、オーミック特性ではなくショトキー性が見られ、その分印加電圧が高くなってしまうことが分かった。これはZnCdSe層とMgZnCdSe層との間の伝導帯ヘテロ障壁によるものと考えられた。そこで、このヘテロ接合における電圧電流特性の理論解析を行った。これより、ヘテロ障壁が作製した試料から見積もられる0.68eVの場合の電圧電流特性の理論値においても同様なショットキー性が見られ、実験結果と合っていることが示された。更に、理論解析を進めたところ、ヘテロ障壁を0.3eV以下にすることでショットキー性からオーミック性に切り替わることが分かった。これより、大きいヘテロ障壁を有するヘテロ接合では、障壁高さが0.3eV以下の数段のヘテロ接合に分けることにより良好なオーミック性になり、印加電圧の低減が得られることが予測された。 次に、ISBTデバイスの光導波路構造について検討した。先ずは、BeZnTe/ZnCdSe超格子ISBT層をコアとし、MgZnCdSe層をクラッドとした構造の導波路解析を行った。しかし、この構造ではISBT層での十分な光閉じ込めが得られるものの、クラッド層厚が十分でない場合、光がInP基板側に漏れてしまう恐れがある。そこで、下側のクラッドにInPを用い、コアにはInGaAsP層、上側クラッドにBeZnTe/ZnCdSe超格子ISBT層及びMgZnCdSe層を用いる新たな構造を提案した。導波路解析により、この構造においてもISBT層で十分な光相互作用が得られることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では初年度にサブバンド間遷移の基礎特性の評価を行う予定であったが、現状ではそこまで到達していない。これは、結晶成長装置に幾つか不具合が発生し、高品質な試料が作製できなかったためである。しかし、その不具合もほぼ解決してきており、今後は十分な品質の結晶/試料が得られ、予定している特性評価も行えると考えらる。一方、特性評価のための環境整備は順調に進んでいる。素子構造や作製条件の検討及び測定装置の準備等は整いつつあり、試料が作製され次第評価に移れる体制にある。また、サブバンド間遷移を利用した光デバイス開発の準備も進められた。デバイスの光導波路の設計や新しい導波路構造の検討を行った。更に、電流注入におけるヘテロ障壁の影響も調べ、実験や理論解析から得られた成果により今後のデバイス設計に向けた貴重な知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
ZnCdSe/BeZnTe超格子及びMgSe/ZnCdSe超格子におけるサブバンド間遷移(ISBT)特性の評価を進める。先ずは、ISBT光吸収特性を調べ、偏波特性や1.5μm帯への波長制御性を評価する。実験値と理論解析結果を比較検討し、構造設計にフィードバックする。また、更なる特性評価及びデバイス化に向け、超格子を内在する光導波路素子の設計及び作製を行い、透過光の導波特性を調べる。例えば、光励起により超格子内の第1サブバンドに電子を励起させることでISBT光吸収特性を観測する。更に、極短パルス励起レーザを用いて光吸収特性の時間応答を調べ、応答速度や電子緩和過程等の評価を行う。ここで得られる知見をこの後のデバイス設計に応用する。 続いて、当該材料を用いた量子カスケードレーザの開発を行う。最初にデバイス構造について、電子注入層、電子遷移層(利得発生層)、電子引抜層等の各構造に適した超格子材料及び構造について検討する。これを基にデバイスを作製し、特性の評価結果を設計、作製条件にフィードバックすることで最適化を図る。先ずはISBT発光を目指し、発光波長、量子効率等の諸特性評価及び改善を試みる。その後はレーザ発振やしきい値電流の低減といった特性向上を目指す。また、ISBTを用いた光変調器について検討する。変調方法として、ISBTによる光吸収を電圧印加により制御する方法が考えられる。先ずはこの方法を基にデバイスを設計し、作製、評価により原理を実証する。また、変調速度等の諸特性を評価する。次に、ISBTを利用した光検出器の開発を行う。動作原理として、超格子の第1サブバンドに注入される電子を信号光により第2サブバンドに励起し、これを高速に引き抜くことで電気信号に変換する手法を用いる。実際にデバイスを作製し、波長依存性や応答感度、速度等の評価を行い、高性能化に向けた検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
全体的な研究経費の使用額が当初の予定より若干低かったため多少の余剰金が残った。これは翌年度の研究経費に充当する予定である。
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