研究課題/領域番号 |
18K04243
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
野村 一郎 上智大学, 理工学部, 教授 (00266074)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サブバンド間遷移 / 超格子 / 光デバイス / 光導波路 / 光閉じ込め係数 / 共鳴トンネルダイオード / 微分負性抵抗 |
研究実績の概要 |
サブバンド間遷移光デバイスの光導波路構造について検討した。コア層をZnCdSe/BeZnTe超格子、クラッド層をMgZnCdSeとして光導波特性の理論解析を行った。超格子コア層を厚くすることでコア層での光閉じ込めが増し、高効率化に繋がる。また、クラッド層への電界分布も低減できることからクラッド層厚の低減にも寄与する。上記の理論解析により、実際のデバイスに適した構造の一例として、コア層厚600nm、クラッド層厚1000nmが得られ、この時の光閉じ込め係数として89%が求められた。一方、サブバンド間遷移光吸収特性測定用の素子構造について検討した。当該測定は素子内で光を伝搬させて行うが、そのためには入射端面を45度程度傾斜させる必要があることが示された。また、十分な吸収特性を得るには1cm程度の素子長が必要であることが分かった。一方、これまでのZnCdSe/BeZnTe超格子に加えMgSe/ZnCdSe超格子におけるサブバンド間遷移特性についても検討した。当該超格子におけるサブバンド間遷移波長を理論解析したところ、MgSe層厚が1~10分子層(1分子層は約0.29nm)においてZnCdSe層厚が6分子層(約1.76nm)の場合にサブバンド間遷移波長を光通信波長帯に制御できることが分かった。他に、ZnCdSe/BeZnTeやMgSe/ZnCdSeヘテロ接合における大きい伝導帯バンド不連続の応用として、共鳴トンネルダイオードの検討にも着手した。MgSe薄膜層を二重障壁層とし、エミッター層、井戸層、コレクター層をZnCdSeとした共鳴トンネルダイオードを作製し室温で電圧電流特性を評価したところ、明瞭な微分負性抵抗が見られた。また、同構造の理論解析を行ったところ実験結果と同様な特性が得られ、共鳴トンネル効果が得られていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
サブバンド間遷移特性の評価に遅れがある。これは結晶装置の不具合や成長条件の調整に時間が掛かり、高品質な結晶が得られない状況が続いたためである。しかし、状況は改善しつつあり、間もなく素子の作製に取り掛かる予定である。一方、素子構造の理論解析や設計は進み、実験に反映できる状況である。また、サブバンド間遷移を用いた光デバイスの解析や設計にも取り組んでおり、試作に向け更に具体的な検討を進める。一方、新たな展開も得られた。本研究では、ZnCdSe/BeZnTe及びMgSe/ZnCdSeヘテロ材料の大きい伝導帯バンド不連続をサブバンド間遷移へ応用することを目指しているが、その別の応用として共鳴トンネルダイオードの検討に着手した。実際にデバイスを作製し評価したところ比較的容易に優れた共鳴トンネル効果が得られたことから、当該材料が共鳴トンネルダイオードに良く適していることが分かった。今後、高性能化やデバイス応用に向けた新たな発展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ZnCdSe/BeZnTe超格子におけるサブバンド間遷移特性の評価を進める。超格子のサブバンド間遷移光吸収特性を測定し、偏波特性や波長制御性を調べる。実験値と理論解析結果を比較検討し、構造設計にフィードバックする。また、同様な評価をMgSe/ZnCdSe超格子においても行い、ZnCdSe/BeZnTe超格子と比較する。次に、超格子を内在する光導波路素子を試作し、透過光の導波特性を評価する。例えば、光励起による超格子内のバンド間遷移とサブバンド間遷移光吸収特性との関係を調べ、光吸収特性の時間応答や電子緩和過程等の評価を行う。ここで得られる知見をこの後のデバイス設計に応用する。続いて、量子カスケードレーザや光変調器、光検出器といった具体的なデバイス展開を検討する。デバイス構造やその構成要素となる超格子材料を検討し、それらを基に試作する。発光特性や光透過特性、応答速度等の諸特性を評価し特性向上に向けた検討を進める。一方、新たな展開として見いだされた共鳴トンネルダイオードについても、高性能化やデバイス応用に向けた取り組みを続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
全体的な研究経費の使用額が当初の予定より若干低かったため多少の余剰金が残った。これは翌年度の研究経費に充当する予定である。
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