研究課題/領域番号 |
18K04249
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
伴野 信哉 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (30354301)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | Nb3Sn / Zn添加 / Ge添加 / Mg添加 / 固相拡散 / 結晶粒 / 磁束ピンニング / 化学量論性 |
研究実績の概要 |
本研究は、今やNMR等の超強磁場磁石に欠かせないNb3Sn超伝導線材の臨界電流特性のブレークスルーを実現するために、中間Cu-X活性層を利用した“特異”なNb3Sn拡散反応現象を発掘し、新たな機能創成につなげることを目指している。 2018年度は、Zn添加に加え、GeまたはMgの同時添加を行い、元素の拡散挙動、結晶組織を電子顕微鏡観察やEDX分析を通じて詳細に調べ、極めて有益な知見を得た。まずZnおよび微量Ge添加では、結晶粒粗大化抑制効果が明らかとなり、やや高温の熱処理を施すことで、臨界磁場を改善しつつ、磁束線ピン止め力を維持できることが明らかとなった。GeはNb3Snフィラメントの周囲に化合物相を形成することが報告されているが、微量Geの同時添加では化合物相の形成は見られない。Zn量は14wt%程度とし、Geは1wt%としたが、加工硬化は顕著ではなく、工業化への適用性に問題ないことも示された。 さらに興味深い結果として、Znおよび微量Mgの同時添加により、結晶粒組織の微細化の効果がより一層増大し、高磁界特性のみならず、低磁界側においても臨界電流特性の大幅な改善が明らかとなり、線材設計上極めて有望であることがわかった。おそらくMgはNb3Sn結晶粒界に原子レベルで偏析し、結晶成長を抑制するピンとして機能しているものと考えられる。先のGeも同様の効果と考えられるが、Mgの方がより一層顕著に思われる。臨界電流密度は、従来比で6%以上の向上が実現された。 さらに進展した結果として、Ti添加場所によるNb3Sn結晶組織形成への影響を、最先端分析技術であるアトムプローブ分析により調査し、TiをSn芯(母材)側にドープするか、Nb芯側にドープするかでNb3Sn結晶粒界の均一性に違いが現れることが明らかとなった。Tiドープモードが、結晶組織形成と深く関係する可能性が示唆される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
元素添加効果を調べる中で、現象解明に関わる新しい知見を得、そこから注意深く、系統的にその効果を調べたことで、微量Mg同時添加で当初想定以上の効果が見出され、研究が大きく進展したため。
|
今後の研究の推進方策 |
現代の高性能Nb3Snの拡散生成においては、大きく2つのステップに分かれている。第1ステップでは、Snと中間Cu層との相互拡散が行われ、第2ステップでは、Cu-Sn層とNbと拡散反応が行われる。第1ステップのSn/Cu相互拡散は、両者の拡散速度の差によるカーケンダルボイドの形成を伴う反応となり、Snの均一拡散や、第2ステップにおけるCu-Sn/Nb拡散反応に大きな影響を与える。特に、実際の極細多芯構造では、Nbフィラメント間の間隔がサブミクロンオーダーと極めて小さく、小さなボイドがSnの拡散に極めて大きく作用する。従って、Nb3Snの高性能化を実現する上で、カーケンダルボイドの生成メカニズムの解明と、その抑制方法の開発は、極めて重要な課題となる。 これまでZn添加によるSn拡散の促進の効果を明らかにしてきたが、Zn量の最適化はまだ行われておらず、加えてZn添加とカーケンダルボイド形成との相関も明らかにされていない。Zn添加効果を最大限に引き出すためには、Sn拡散挙動、カーケンダルボイド形成等の複合的な観点から、Zn添加効果を調査することが不可欠である。 こうした背景から、2019年度では単純構造試料を準備し、Sn/Cu-Zn拡散反応における生成層の同定や、生成層の成長速度などの調査を行い、基礎材料学問的基盤の確立に尽力する。そうした土台の上に、Zn量の最適化等、Nb3Sn高性能化に繋がる芽を見出し、次世代線材のための設計指針を検討するとともに、新たな課題発掘に取り組む。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度試作した試料について、当初想定以上の特性が確認されたため、試料の物性測定に注力し、当初予定していた材料費を温存したため。
|