研究課題/領域番号 |
18K04257
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
山口 留美子 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (30170799)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高分子複合液晶 / 反応性メソゲン / 光散乱 / 低電圧駆動 / リバースモード / レンズ効果 / スマートウインドウ |
研究実績の概要 |
液晶中に~10%程度の高分子を分散させた高分子・液晶複合素子は,透明状態から光散乱状態への電気的切り替えを可能とするリバースモード特性を提供する。しかし,通常の液晶ディスプレイと比較しその駆動電圧は10倍程高い。そこで,申請課題では低電圧駆動(~6 V)を可能とするため,従来の“高分子―液晶間の屈折率差による光散乱”の他に,大小の液晶ドメインの再配向電圧の違いに着目し,“液晶ドメイン間での光散乱機構”を新規に提案する。これまで,ホモジニアス配向のリバースモード液晶素子において,面内に不均一な紫外線強度照射を行い,液晶ドメインの異なる領域を作り込むことで,しきい電圧の大幅低下を実現した。また,90度ツイステッドネマチック配向において,同様の不均一紫外線照射を試み,異常光のみならず,常光も散乱させることができた。 2020年度は,I 液晶ドメイン間での光散乱機構の解明,II 高分子モフォロジーの制御技術の確立を,研究計画として挙げていたが,新型コロナウイルスにより,実験が予定通りに進まない状況が発生した。そこで,I 液晶ドメイン間での光散乱機構の解明,を重点的に行った結果,“高分子―液晶間の屈折率差による光散乱”の他に,“液晶ドメイン間での光散乱機構”を組み込んだ,電気光学特性シミュレーション解析により,これまでの測定結果とのフィッティングを行うことで,両散乱機構の寄与の比較を行うことができるようになった。 また,これまでのp型に加え,n型液晶を用いてホールパターン電極を用いたマイクロレンズ効果による光散乱をの“高分子―液晶間の屈折率差による光散乱”に加えることを試みた。パターン電極とセル厚の条件によっては,光散乱強度の増加と低電圧駆動化が両立することを明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度に中断していた,I 液晶ドメイン間での光散乱機構の解明,に関しては以下の手順で検討を行い,ドメイン間の光散乱寄与が,低電圧駆動化に大きく寄与していることを明らかにできた。 A)対数複合誘電率の法則(Lichtenecker’s logarithmic law )を用い,素子の「静電容量vs.印加電圧」の測定データより,高分子,高分子にトラップされて再配向しない液晶,液晶小ドメイン,液晶大ドメインの各体積分率,および両ドメインのしきい電圧を算出。B)液晶大小ドメインの電圧印加時における「両ドメインの平均の屈折率と高分子マトリクスの屈折率差」および「両ドメイン間の屈折率差」を算出。C)それぞれ散乱断面積(屈折率差の2乗に比例)に重みづけを行い,両散乱断面積と体積分率とで透過率の電気光学特性とのフィッティングを行い,光散乱係数を算出。 以上の解析を,異なるUV強度変化によるドメインの大きさ,異なる高分子モフォロジー,に着目して行った。電気光学特性とのフィッティングでは非常に一致したものが得られ,条件によっては,ほぼ液晶ドメイン間の光散乱が透過率を決定していることが分かった。このシミュレーションから,液晶と高分子の屈折率差のみが光散乱に寄与している,とする機構よりも,その駆動電圧は1/2に低減できることも明らかになった。2019年の結果からは,厚み方向でのドメインの大きさも考慮する必要があると思われたが,今回は厚み方向でのドメイン変化は考慮していない。解析結果としては,厚み方向の分布は平均化されたものとして計算されているからかもしれない。 II 高分子モフォロジーの制御技術の確立,では,パターン電極を用いたマイクロレンズアレイ効果によっても光散乱の増加が得られ,n型液晶では素子作製条件によっては低電圧駆動かも可能であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
I 液晶ドメイン間での光散乱機構の解明:2020年度の解析はp型液晶を用いた素子で行った。ここでは大小液晶ドメインによるモデルは,電気的特性および光学特性両方の電圧印加時の変化を大変よく再現できた。n型液晶を用いた素子は,無偏光でも十分な光散乱が生じる。無偏光に対応した,シミュレーションが行えるよう,解析ソフトを改良し,p型,n型両素子において,低電圧駆動化における液晶ドメイン間での光散乱機構の寄与の大きさを検討する。 II 高分子モフォロジーの制御技術の確立:フォトマスクを使用したUV不均一照射による液晶ドメイン間での光散乱機構が,光散乱強度増加と低電圧駆動の両立を可能にできることはこれまでに明らかとなった。加えて,パターン電極による不均一電解を用いたマイクロレンズアレイの効果も組み入れられる。すなわち,UV不均一照射により,不均一な高分子濃度分布は,不均一なしきい電圧分布,すなわちレンズ効果が期待できる。これまでの測定結果に,レンズ効果の評価を加えることで,さらなる光散乱強度増加と低電圧駆動の両立,を目指す。 一方で,UV不均一照射による高分子濃度の高い(液晶ドメインが小さい,しきい電圧が大きい)部分は,素子の機械的強度を高くする効果も期待できる。部分的に機械的圧力を加えた時の,素子の損傷,光散乱特性への影響,を均一UV照射の素子と比較し検討を行う。 以上、これまでの研究成果の総括を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの蔓延に伴い,6月に開催予定の国際会議が取りやめになったことから,旅費及び参加費を支出しなかった。さらに国内の学会や研究会もすべてオンライン開催になったことにより,旅費は使用しなかった。また,大学構内への人数制限等で研究補助の院生が登校および研究が計画通りにできず,実験で使用予定の消耗品が,購入に至らなかったことなどから,支出予算額との差が生じた。 状況が改善し,通常の研究体制に戻り次第,精力的に研究や成果報告を行う。実験の再開が困難な場合には,シミュレーションの充実を計画しており,計算用コンピュータの購入または使用費に充てることを考えている。
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