液晶中に3~10%程度の反応性メソゲン基を有する異方性高分子を分散させた高分子・液晶複合素子は,透明状態から光散乱状態への電気的切り替えを可能とするリバースモード特性を提供する。しかし,通常の液晶ディスプレイと比較しその駆動電圧は10倍程高い。そこで,申請課題では低電圧駆動(~6 V)を可能とするため,従来の“高分子―液晶間の屈折率差による光散乱”の他に,大小の液晶ドメインの再配向電圧の違いに着目し,“液晶ドメイン間での光散乱機構”を新規に提案する。 これまで,ホモジニアス配向のリバースモード液晶素子において,面内に不均一な紫外線強度照射を行い,液晶ドメインの異なる領域を作り込むことで,しきい電圧の大幅低下を実現した。また,90度ツイステッドネマチック配向において,同様の不均一紫外線照射を試み,異常光のみならず,常光も散乱させることができた。 さらに,液晶ドメインの大きさによる液晶再配向電圧の違いに着目し,ある印加電圧における大小液晶ドメインの平均屈折率の違い,それによる液晶ドメイン間での光散乱機構を,従来の液晶と高分子間の屈折率差による光散乱に加えることで,電気光学特性シミュレーション解析が行える計算システムを提案した。これまでの実測データの電気光学特性との比較により,両散乱機構の寄与の比較を行うことができるようになった。 2021年度は,この計算システムにより,電圧―誘電率特性,電圧―透過率特性において,測定結果を再現できる各種パラメータを明らかにし,低電圧駆動化には大小液晶ドメイン間の散乱が,非常に効果的に寄与することを明らかにした。さらに,液晶再配向電圧の違いは,屈折率分布,いわゆるレンズ効果を発現することにも着目し,マイクロレンズアレイの散乱効果の寄与を組み入れた高コントラスト化も確認できた。
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