研究課題/領域番号 |
18K04261
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
佐藤 弘明 静岡大学, 電子工学研究所, 助教 (00380113)
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研究分担者 |
猪川 洋 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (50393757)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 集積化バイオセンサー / ラベルフリー / 表面プラズモンアンテナ / SOIフォトダイオード |
研究実績の概要 |
本年度の実施計画では、まず提案しているSPアンテナ付SOIフォトダイオードを2ヶ利用し、それらの出力を比較することによって、波長走査が不要な屈折率測定を実現するところにあった。電磁界シミュレーションによってデバイス構造や測定光学系の条件を最適化した上で、シミュレーション結果と試作デバイスを用いた測定結果とを照らし合わせた。測定においては、他の光学バイオセンサーの性能評価において一般的に用いられるショ糖水溶液を検体として採用し、濃度によって屈折率を調整して測定した。測定中、同じ濃度のショ糖水溶液であるにも拘らず、出力信号がドリフトする状況が観測された。これがショ糖水溶液の温度に起因していることがわかった。屈折率とショ糖水溶液温度との関係を文献から調査するとともに、検体温度測定用のダイオードを新たに配置して温度変化を補償する方法を導入した。その結果、屈折率感度(検体屈折率変化に対するフォトダイオード出力の変化量)は、シミュレーションと実測との間で良く合致し、狙い通りの特性が得られた。一方で、出力信号の雑音レベルが想定よりも2桁高くなっている問題が残った。屈折率変化の測定限界は1 x 10の-5乗 RIU (RIUは屈折率単位)が現状で、目標値である10の-6乗 RIU 台には到達しなかったものの、他の光学バイオセンサーの性能に比肩しうる値を得た。 さらに上述のショ糖水溶液を用いた基本性能評価に加え、実際に生体分子結合の測定についても検討した。検体として、タンパク質の一種であるアビジンと、ビタミンの一種であるビオチンの結合系を利用した。金のSPアンテナ上に、チオール基を有する分子を固定化し、さらにビオチン、アビジンの順番で固定化させた場合の信号変化を捉えた。意図しない信号変化が含まれており、更なる調査が必要な状況であるものの、こちらも一定の成果を得たと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案していた波長走査が不要な屈折率測定方法は、期待していた特性が得られることを実証した。それに加え、有限差分時間領域(FDTD)法による電磁界シミュレーションによる性能予測を可能とした。具体的には波長 685 nm の単一波長の入射光に対し、周期 330 nm と 340 nm を有するライン・アンド・スペース型SP(表面プラズモン)アンテナを、それぞれの上部に配した2つのSOI (silicon-on-insulator)フォトダイオードの応答について検討し、予測は試作デバイスの実測と比較して良く合致していた。すなわち、試作前の設計において、電磁界シミュレーションが有用であることを示せた。この成果を利用すると、屈折率測定性能の最適化について検討できる。 また、生体分子結合を測定するため、金表面への固定化方法について検討した。最初は平坦な金表面へに対し、(1) 金とビオチンとのバインダーになるシステアミンを固定化、(2) ビオチンを固定化、(3) 蛍光標識付きのアビジン分子の順番で固定化した。アビジンが正常に固定化されているかについては蛍光顕微鏡観察によって評価した結果、金の存在する表面にアビジンが固定化されていることを確認した。その上で凹凸構造を有する金のSPアンテナにシステアミン-ビオチン-アビジン分子を固定化させ、そのアンテナが配されたSOIフォトダイオードの出力信号を観測した。研究実績の概要欄で述べた通り、意図しない信号変化が含まれているものの、固定化に伴う特徴的な信号変化が得られており、一定の進展が見られた。 以上を踏まえると、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における光学バイオセンサーの性能指数として最も重要な屈折率測定限界は、雑音レベルと屈折率感度(屈折率変化に対する出力信号変化)との比で評価される。高性能化のためには,雑音レベルに対しては低減が、屈折率感度に対しては向上がそれぞれ必要となる。雑音レベルの低減に関しては、デバイス、測定光学系、検体送液系、環境温度等の状況を多角的に整理することが重要である。デバイスシミュレーション、測定系の見直し、専門家への相談等によって改善を図る。屈折率感度の向上に関しては、電磁界シミュレーションによって、デバイス構造と光学系のさらなる最適化を実施する。 生体分子結合の測定においては、意図しない信号変化の原因を究明する。より実測の状況を反映させた電磁界シミュレーションや、エリプソメトリ、蛍光顕微鏡、原子間力顕微鏡等、他の方法による生体分子の観測等を駆使して、金表面への生体分子固定化の状況を詳細に把握する。その上で、ビオチン-アビジン結合の定量化についても検討し、結合分子の計数を目指す。また、無毒化インフルエンザウイルス等、多種の生体分子結合についても同様に検討し、本研究における光学バイオセンサーの汎用性に関する議論へ展開する。
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