研究課題/領域番号 |
18K04268
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中島 義賢 大阪大学, ナノサイエンスデザイン教育研究センター, 特任准教授(常勤) (40408993)
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研究分担者 |
坂本 安 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (80178582)
水木 徹 東洋大学, バイオ・ナノエレクトロニクス研究センター, 研究助手 (80408997)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ラボオンチップ / 電気泳動コールター法 / 老化細胞 / ゼータ電位 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
本研究では、ラボオンチップを電子デバイス化するための『電気信号』による生体反応の検出技術の確立を行うことを目的とした。取り組みとして、a) 電気泳動コールター法の『実験から得られる流速≠電気泳動速度』の環境下での動作確認、b) 細胞の老化に伴う状態変化の『電気信号』による検出、c) 細胞の経過観察可能な分析デバイスの作成およびその細胞周期の測定、を予定し、初年度はb)を行った。本年度(2年目)は、引き続きb)に加えて、c)について取り組んだ。
その内容は、初代培養の細胞を用い、その継代回数を経ることによる細胞の老化について調べていく。細胞の多くでは細胞分裂回数に限界があるため、たとえある細胞ががん化したとしても、それが有限寿命がん細胞であれば増殖を抑制できるので病気としてのがんを防ぐことができる。一方で、細胞分裂回数の限界に達した(老化)細胞は、生体内からすぐにはなくならないため、その分泌物によって周辺細胞をがん細胞にすることが知られている。 がん細胞はグルコースの取り込みと乳酸の分泌の度合いが、正常細胞のものよりかなり大きく、多くのがん細胞の株において表面が負に帯電していることが報告されている。血清や特定物質の暴露により細胞の分化の誘発や阻害が起こり、この時、表面電位が変化することも報告されている。
老化細胞においてもメカニズムは異なるがグルコースの取り込みと乳酸の分泌の増加が知られていることから、分泌物や細胞外環境に注目して、細胞老化による変化について「電気信号」によって判断可能かどうかを調べることを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
継代回数の少ない(若い)細胞から継代回数を経ることで老化した細胞を用意し、細胞老化の評価を試みた。正常細胞と老化細胞のサンプルを用い、電気泳動コールター法によるゼータ電位の測定を試みた。その結果、老化による有意な差があることが分かった。また、異なる細胞株においてもその傾向はみられた。
がん細胞はグルコースの消費と乳酸の分泌が、正常細胞のものよりかなり大きく、また、多くのがん細胞の株において表面が負に帯電していて、この要因としてグルコースが解糖系から乳酸(-)へ代謝され、それが細胞膜から分泌されることによることが調べられている。そして、その乳酸は、原発腫瘍の悪性度と転移確率の予後指標となる。老化細胞においてもメカニズムは異なるがグルコースの取り込みと乳酸の分泌の増加が報告されている。このことから、老化細胞において生じた表面電位(ゼータ電位)の変化をグルコースの乳酸(-)への代謝に関連させて考察するための準備を行った。
初年度とは異なる細胞株を用い電気泳動コールター法によるゼータ電位の測定を行うことを優先したために、予定していたテロメア長測定を実施することができなかった。 2年目にあたる本年度は、国際学術雑誌2件の発表を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
さまざまな組織や細胞外環境のがん細胞を特定できるバイオマーカーのように、老化細胞においても選択的に、しかし広く識別することができるバイオマーカーとして、表面電位(ゼータ電位)に注目し、分化の型、細胞状態の把握に利用できるかどうかの可能性を調べる。今後も継続して電気泳動測定を行い、その表面電位(ゼータ電位)の結果から、細胞の老化状態(normal、early senescent, late senescent)の分類が可能かどうかを調べていく。そして、その表面電位の変化する起源を明らかにする。
電気泳動測定のためには電圧印加が必要で、一方で、これは電圧条件によっては細胞へ回復不能なダメージを与えることになる。また、正常細胞では表面電位(ゼータ電位)が小さいため電気泳動させるためには大きな電圧が必要になる。そこで、最終年度に、a) 電気泳動コールター法の『実験から得られる流速≠電気泳動速度』の環境下での動作確認、を行い、測定できる表面電位の範囲向上に繋げる。つまり、測定領域まで圧力勾配を利用して細胞を搬送し、測定領域ではできるだけ小さな電圧で測定し、『実験から得られる流速』から『圧力勾配速度』を除き『電気泳動速度』が求められるようにしていく。
上記の実験を行いながら、ラボオンチップを電子デバイス化するための『電気信号』による生体反応の検出技術の確立をめざしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の優先順を変更し、テロメア長測定のための出張実験を延期したため。
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