研究課題
今年度の制限のある研究の状況を鑑み研究の表題そのものに限定せず、内容の本質を捉えながら、出来うる研究を進めた。具体的には、銀のナノ構造体は光との相関が非常に強く、いわゆるプラズモンを発現する特徴的な粒子である。これは、銀のみならず、銀に比して安定な金の粒子でも発現する。我々は以前に銀ナノ粒子を、パルス電解法によって生成し、その粒径によってプラズモン吸収が変化し、多彩な色を呈色することを示しており、これが元となって、今回の研究に至っている。今年度は、パルス電解法により島状金ナノ粒子をITO 膜付きガラス板上に固定化した。それを電極(Au-ITO)として、ピロールの連続的な電位掃引による電解重合を行い、未処理ITO 電極と重合過程の比較を行った。その結果、Au-ITO を用いることで、ピロールの酸化が少なくとも200 mV 以上低い電位で起こっていることを確認した。また、Au-ITO の使用で重合中のピロール高分子の電気化学的な劣化を抑制できることも明らかとした。これを日本写真学会の論文として発表した。この論文は高く評価され、論文賞を受賞することが出来た。銀ナノ粒子は、光との相互関係が強い一方、その不安定さが、動的と静的に固定化することの両立を阻んでいる。このような観点から、銀ナノ粒子における潜像の安定性を、宇宙線イメージングのための核乳剤の最も重要な特性と考え、これらの検討も進めた。今回研究した乳剤は、AgBrI粒子に、新しい潜像安定剤としてベンゾチアゾリウム化合物化合物で構成されており、大気中での光電子収量分光法によって特徴付けた。潜像中心は小さなAgクラスターで構成され、+1/2の電荷を持つ部位に位置するため、Agn+1/2と表現される。このモデルの安定性を添加剤の効果との関係を上述のモデルの潜像形成のメカニズムの観点から考察した。これらの結果を英文誌にまとめた。
2: おおむね順調に進展している
研究課題名を本質的な観点から、研究出来うる内容として検討し成果とした、進捗状況の区分「おおむね順調に進展している」理由は、研究実績の概要に記した。
今後は最終年度のまとめに当たるため、いままでに得られた知見を元に、銀ナノ粒子構造体の特徴を引き出せるデバイス構築のための知見として発表・論文にまとめる。また、昨今のSDGs、脱炭素社会の実現に向けて、光をキーとした機能性材料を銀を代表とする金属ナノ粒子が、この目的に整合する、適切な材料であることを示す。これによって、本研究課題が、ある一部の学問分野の研究でなく、時代の要請ならびに社会的な要請に応える研究であることを同時に発表に内包する方針として成果をまとめる。
最終年度を1年延長したため、主に研究成果をまとめるにあたる相当額を次年度に繰り越した。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
日本写真学会誌
巻: 83 巻 1 号 ページ: 65-68
Nuclear Inst. and Methods in Physics Research
巻: , A 975 ページ: 164163_1~9
10.1016/j.nima.2020.164163