研究課題
本年度は、申請テーマのうち静的な特性、特にナノ粒子における安定性について検討した。銀ナノ粒子が、隠れた画像情報を有する潜像の褪色には、1次反応と2次反応の2種類がある。前者は宇宙線照射では生成されない酸化剤による潜像中心の酸化であり、後者は照射により生成されたX2(X:ハロゲン化銀)による潜像中心の再ハロゲン化である。乳剤層中のゼラチンの体積比が減少すると、照射後数日以内に後者が優位になることを明らかにし、ゼラチンがこの種の潜像退色を抑制するのに非常に有効であることを示した。これに加えて、光電子分光法による新規添加物の物性・挙動に関する研究を発展させ、電荷量+1/2の潜像中心がイオン過程(Ag+イオンの脱離)と電子過程(電子の損失)を次々に繰り返しながら劣化し、電荷量が-1/2に変化して戻るという一次反応による潜像劣化の機構を証明することが出来た。これらを“Track formation in nuclear emulsion plates for cosmic-ray imaging with stabilized Ag nanoparticles”として論文にまとめた。さらに、応用展開の観点から「金属ナノ粒子、微粒子の合成、調製と最新応用技術」の書籍の一部、第6章 金属ナノ粒子、微粒子の光学材料への応用技術、第9節 銀イオンを用いた透明エレクトロクロミック素子とスマートウィンドウの開発の執筆の一部に携わった。これによって、本研究テーマである「光デバイス用銀ナノ構造体を用いたスマートウィンドウ」の試作事例が論文以外に書籍で紹介出来た。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要にも記載したとおり、銀ナノ粒子の劣化に対する安定性の知見について光電子分光法による新規添加物の物性・挙動に関する研究を発展させ、電荷量+1/2の潜像中心がイオン過程(Ag+イオンの脱離)と電子過程(電子の損失)を次々に繰り返しながら劣化し、電荷量が-1/2に変化して戻るという一次反応による潜像劣化の機構を証明することが出来た。また、応用展開の観点から、「金属ナノ粒子、微粒子の合成、調製と最新応用技術」の書籍の一部、第9節 銀イオンを用いた透明エレクトロクロミック素子とスマートウィンドウの開発の執筆の一部に携わることが出来た。このため、概ねの目標に準じていると思われる。
ここまでの研究で、静的な安定性の向上については、ある程度の知見を得ることができた。しかしながら、動的/静的な特徴の両者の特性を同時に向上させることは難しい点がある。具体的には、イオンや粒子によるホスト・ゲストの材料の探索と併せて、デバイス構造に関しても最適な方策を検討する。
再度延長し外部への成果の発信を行うため。
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Elsevier B.V., Nuclear Inst. and Methods in Physics Research, A
巻: A 1006 ページ: 165427- 1-10
10.1016/j.nima.2021.165427