研究課題/領域番号 |
18K04276
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
辻 寧英 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (70285518)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光導波路デバイス / トポロジー最適設計 / 進化的手法 / 関数展開法 / 有限要素法 / プラズモニックデバイス |
研究実績の概要 |
高速大容量光通信実現のために、そこで用いられる光導波路デバイスの自動最適法について検討を行った。申請者はこれまでに設計領域内の構造表現に関数展開法を用い、随伴変数法による感度解析に基づく勾配法によるトポロジー最適設計法の開発を行い、設計者の知識に頼らずに全く新しい光デバイスを創出できる可能性とその有用性を示してきた。一方で、勾配法に基づく最適化では局所的最適解に陥り大域的な最適解を求められない場合がある。また、プラズモニックデバイスなどの場合には金属が負の大きな屈折率を有するため通常の方法では感度解析が困難な場合がある。そのためここでは、構造表現にはグレイ領域を完全に抑圧できる関数展開をそのまま採用し、プラズモニックデバイスを例に、各種の進化的手法を用いた最適設計に取り組み、プラズモニック光ダイオードおよびプラズモニック光サーキュレータの新たなデバイス構造を見出している。進化的手法として、遺伝的アルゴリズム、粒子群最適化、差分進化法、蛍アルゴリズムおよびそのハイブリッド手法を比較検討しその有用性を確認している。また、関数展開法に用いる関数系の違いによる解の収束性と最適化構造の違いについても比較検討し有益な知見を得ている。金属を含む場合の有限要素法解析では誘電体導波路の場合と比べて媒質境界を忠実にモデリングすることがより重要になるため、最適化の過程での構造変化に応じて境界適合した有限要素メッシュを自動生成する方法についても開発を行っている。これにより、より少ない要素数で精度の高い解析が可能となり、設計効率が改善されている。進化的手法の採用により、各導波路への透過率のみの最適化だけではなく、構造のトレランスなどを考慮した最適設計も容易となり、その基礎的な検討も行うとともに、得られた最適化構造を単純な構造に置き換えたパラメータ最適化による構造単純化の検討も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
設計領域内の構造表現に関数展開法を用い進化的手法により最適化構造を得るための検討を行ってきた。具体的に、2次元プラズモニック光デバイスを例として、光ダイオード、光サーキュレータの設計問題に本開発手法を適用し、これまでにない新たなデバイス構造を見出すことができた。設計条件と最適化手法を変えながら設計を繰り返し、安定して同じような最適化構造が得られることが確かめられ、この問題設定において準大域的な最適解を見いだせていることも確認できた。一方、プラズモニックデバイスに対する感度に基づく最適化では、局所的な界の集中や初期構造に近い構造に収束してしまうなど誘電体デバイスの設計に比べて設計条件の選択に設計者の経験に頼ることが多く、ここで開発した設計手法の有用性が確かめられ、本手法と感度に基づく最適化手法をハイブリッド化することでより効率的で汎用的な設計手法に発展させられる可能性が示された。さらに、ここで開発した手法を数値解析にビーム伝搬法を用いた誘電体導波路の設計にも適用し、トレランスを考慮した最適設計やビーム伝搬法の適用限界を超えない構造の範囲内での最適設計など、最適設計法の応用範囲を広げられる可能性についても示すことができた。さらに、カー型非線形光学デバイスの設計にも応用し、光論理ゲートの設計が可能であることも示した。これらの成果は国際的な論文誌に既に掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討で、進化的手法を用いた最適設計法の有用性を確認した。進化的手法では勾配法に基づく最適設計に比べて多くの光導波路解析を繰り返す必要がある。そのため、勾配法に基づく最適設計法は依然として有用であり、進化的手法と勾配法をハイブリッド化した最適設計法を確立することでより汎用的で効率的な最適設計法に改良することができると考えられる。しかしながら、金属を用いたプラズモニック導波路の場合には通常の関数展開法では感度が精度良く求まらない問題が確認されている。そのため、トポロジー最適化において関数展開法を用いたときのグレイ領域を用いた感度解析法を改良し、グレイ領域を用いずに境界積分を用いて感度解析する方法について検討を行い、進化的手法と勾配法に基づくハイブリッド最適化の可能性を探る。さらに、最適化の過程で媒質境界に合わせて有限要素メッシュを更新する手法についても見直し、媒質境界で扁平な要素ができるのを抑圧し、より少ない要素数でより精度の高い解析を実現するための検討を行う。有限要素法で用いる要素の高次化の効果についても確かめ、本手法を用いた3次元光デバイスの最適設計についても見通しを明らかにする。こうした検討を通して、様々な光デバイスの小型化・高性能化の検討を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加のための旅費分として考えていたが、端数となったため、次年度の助成金と合わせて成果報告のための旅費にするために次年度に繰り越すこととした。
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