研究課題/領域番号 |
18K04280
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
山梨 裕希 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70467059)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 単一磁束量子回路 / 回路シミュレータ / パイ遷移ジョセフソン接合 |
研究実績の概要 |
本研究では、従来のジョセフソン接合のみで構成される超伝導単一磁束量子回路に、ジョセフソン接合と相補的な電流-電圧特性を持つパイ遷移ジョセフソン接合の導入することによる大幅な性能の向上を狙いとする。 本年度は超伝導単一磁束量子論理回路の構成に必要な二重井戸型のポテンシャルが、超伝導ループにパイ遷移ジョセフソン接合を挿入することによって、外部からのバイアス電流または磁束の印可なしに実現できることを理論的に明らかにした。このパイ遷移ジョセフソン接合を含む超伝導ループを用いてあらゆる論理ゲートが設計できることを示した。さらにジョセフソン接合とパイ遷移ジョセフソン接合を一つずつ含む超伝導ループの構造的、論理的対称性を用いて、相補出力型の非破壊読み出しフリップフロップが従来よりも極めて簡単な構造で実現できることを見出した。相補出力非破壊読み出しフリップフロップは超伝導論理回路の構成において極めて重要な回路要素であり、今後の論理回路設計において、低面積化、電力効率の向上に大きく寄与できるものと考えられる。 回路性能の定量的評価のために、パイ遷移ジョセフソン接合を含む回路の特性を計算できるアナログ回路シミュレータを開発し、ソースコードを公開した。回路の素子マージンの抽出用ツールを作成し、Dフリップフロップと相補出力非破壊読み出しフリップフロップの評価を行った。いずれのフリップフロップにおいても、従来の回路のよりも電力を削減しながら、広いマージンを得られることを示し、論理ゲートレベルで単一磁束量子回路へのパイ遷移ジョセフソン接合の導入の有効性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
パイ遷移ジョセフソン接合を用いてあらゆる論理ゲートを構成できる設計法を開発したことで、今後従来の超伝導単一磁束量子回路との性能比較を可能にできる。パイ遷移ジョセフソン接合を含む回路の特性を計算できるアナログ回路シミュレータの開発は回路性能の定量的評価や、回路パラメータの最適化に大きく寄与する。相補出力論理ゲートが極めて簡単な回路構造で実現できることを示したことは、従来の単一磁束量子回路の欠点であった集積度を向上させることにつながる。さらに相補出力を信号の”0”と”1”を表す二線式とよばれる論理回路構成に発展させることもできる。 パイ遷移ジョセフソン接合を用いた超伝導単一磁束量子回路の設計法に関する発表は国際学会の招待講演に選定され、同内容の論文は応用物理学会超伝導分科会研究奨励賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、さまざまな論理ゲートや論理回路の設計を通じて、パイ遷移ジョセフソン接合を導入することが有効である回路構成を明らかにする。その後大規模な論理回路の設計と回路シミュレータによる評価を通じて、単一磁束量子回路へのパイ遷移ジョセフソン接合の導入の有効性を大規模回路レベルで実証する。相補出力フリップフロップが極めて重要な役割を果たすデコーダ等の回路にパイ遷移ジョセフソン接合を導入し、小面積で回路が実現できることを示す。 さらにバイアス電流または磁束の印可なして双安定状態が実現できること、磁束量子の半分の磁束量で信号を表現できるパイ遷移ジョセフソン接合を含む回路の特徴を利用した、従来の単一磁束量子回路では不可能だった応用回路の探索を行う。パイ遷移ジョセフソン接合の特性を模擬するための磁束量子をひとつ捕捉した超伝導ループを用いて、パイ遷移ジョセフソン接合を含む回路の疑似的な設計、および評価を行い、本研究における回路の有効性を実験的に実証することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に用いる消耗品である液体ヘリウムの単価が見込みより安かったため。翌年度はより多くの液体ヘリウムを購入し、実験の回数を増やす予定である。
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