研究課題/領域番号 |
18K04285
|
研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
有吉 哲也 九州工業大学, マイクロ化総合技術センター, 助教 (60432738)
|
研究分担者 |
有馬 裕 九州工業大学, マイクロ化総合技術センター, 教授 (10325582)
坂本 憲児 九州工業大学, マイクロ化総合技術センター, 准教授 (10379290)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | X線センサー / 単一X線光子計測 / フォトダイオード / シリコン / トレンチダイオード / X線CT |
研究実績の概要 |
無用なX線被曝量の桁違いな抑制・高速応答・広ダイナミックレンジにて、X線のエネルギー情報から画素ごとの元素濃度マッピングを実現する次世代の非破壊X線撮像であるフォトンカウンティング型X線CTに向けたX線センサーに関するものである。X線センサー材料としてのシリコンは他のCdTeやa-Seと比べて、電荷キャリア移動度やキャリア寿命の点で大きく優れている。また、加工性も優れており、提案する新構造シリコンX線センサーでは低いX線検知能を大幅に改善し、光電変換で生成した電荷キャリアを高速収集できる。CdTe材料よりも一桁優れたダイナミックレンジを実証し、次世代のX線CTスキャナー:光子計数型X線CTの要素技術を構築していく。 新構造X線センサーとして、トレンチ構造型PN接合シリコンフォトダイオードを採用した。P型シリコン基板上に溝(トレンチ)を掘り、その溝の壁面に拡散剤を塗布してN型半導体領域に改質させることでトレンチ構造型PN接合シリコンフォトダイオードを形成する。特徴として、PN接合の実効センサー長を十分に確保でき、X線をセンサーに沿って入射させ、X線検知能を改善できる点や、PN接合が溝状であるので、僅か数十ボルトの低逆バイアス電圧にてセンサー基板深い位置でも空乏化でき、光電変換後の生成電荷を損失なく高速収集することができる。 これまでに単一光子検出用のトランスインピーダンス(TIA)回路をエポキシ樹脂基板上にハンダ工作し、TIAの帰還容量1pFにてX線センサーに5.5MeVのα粒子を照射してパルス信号を得た。平成31年度(令和元年度)ではX線光子計測を目指して、帰還容量0.025pF付きのTIA回路をプリント基板上にパターン形成した。試作X線センサーと組み合わせて60keVのγ(X)線光子を照射したところ、波高値約110mV、立ち上がり時間が数10nsの信号パルスを観測した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既にX線センサーは平成30年度に試作済である。平成30年度で試作した信号処理回路系は全て手作業で配線作業やハンダ付けを行っており、寄生成分や電源ノイズが多くみられた。用いたリードタイプの帰還容量も1pFと、容量値も物理的サイズも大き目であり、このままでは目標とするエネルギー帯(数10~100keV)のX線光子の検出が困難である。平成31年度(令和元年度)は、信号処理回路系に潜み、信号遅延の原因となる寄生容量成分や電源ノイズを抑制するために、X線光子検出用TIA回路をプリント基板上にパターン形成した。これによって配線長をできるだけ短くでき、ハンダ使用量も少なくでき、寄生成分の抑制に寄与し、信号遅延を抑制することができる。また、プリアンプの電源部において、高周波数領域でもESL(等価直列インダクタンス)を抑制するようなパスコン用チップ三端子コンデンサやフェライトビーズを複数実装した。これにより、電源ノイズを抑制でき、SN比の改善及び信号のトリガの容易さにつながる。また、0.025pFのチップ型コンデンサをトランスインピーダンス(TIA)回路の帰還容量として実装した。 試作済みのX線センサーを新しく製作した信号処理回路系を搭載したプリント基板上に実装し、アメリシウム241線源から放出される60keVのγ(X)線光子をX線センサーに照射した。なお、線源を市販の紙で覆い、線源から放射される5.5MeVのα線は遮蔽してある。TIA回路から観測した60keVのγ(X)線光子検出パルス信号の波高値は110mV程度であり、理論値とほぼ一致した。また、立ち上がり時間について複数のパルス波形からヒストグラムを取り、ピーク値で約30nsであった。このように、60keVのγ(X)線光子のパルス信号を得て、ある程度早い立ち上がり時間を得た。 以上により、現在までの研究の進捗状況はおおむね順調と言える。
|
今後の研究の推進方策 |
現状では60keVのγ(X)線光子検出パルス信号をオシロスコープで観測・保存し、手作業で立ち上がり時間を処理している。そこで、パルス信号の立ち上がり時間の統計を取ることができるNIM規格型パルスシェープディスクリミネータを導入し、パルス観測と同時に自動的に立ち上がり時間の情報について統計量(ヒストグラム)を増やして処理していく手法をとる。この処理に必要なNIM電源ピンとスペクトロメータは既に入手済である。また、X線センサーのX線照射部の画素開口幅は約30μmであることと、現状で用いているアメリシウム241線源(φ2.4mm)の強度は法規制を受けない程度の8kBqと弱く、十分なパルス統計量を得るには膨大な時間が必要と思われる。対策としてもう少し強度がある線源の導入や、既に稼働しているX線発生装置(管電圧80kV~160kV)を利用する手段を検討する。 また、トレンチ構造型PN接合シリコンフォトダイオードとの比較用で、通常のPN接合シリコンフォトダイオードによる60keVのγ(X)線光子検出パルス情報を得る必要がある。現状ではこの通常のPN接合シリコンフォトダイオードではトレンチダイオードではないのでγ(X)線検知効率が十分ではなく、やはり統計量を稼ぐには現状よりも強い線源の利用を検討すべきである。 事前の理論検討では、提案X線センサーを用いた場合のX線光子検出パルス信号の立ち上がり時間はナノ秒レベルである。現状では数十ナノ秒に留まっており、寄生成分の更なる抑制を必要とする。プリント基板上の回路パターンにおける配線、利用チップ部品(チップ抵抗やチップコンデンサなど)の高周波特性の把握、オシロスコープで波形観測する際にはピコプローブの利用など、改善事項を一つ一つ対応していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2017年度~2018年度に本科研費事業以外に民間財団助成金にも採択され、研究費を得た。その結果として、2018年度は科研費について次年度使用額が生じた。より研究環境を整えようと思い、3度の評価プリント基板の製作や電流電圧変換モジュールの購入や消耗品類の購入、情報収集のための研究会参加、半導体デバイス試作技術向上のためのセミナー参加を行ってきた。しかし、評価プリント基板製作で割引を受け、消耗品購入では定価より安く購入できたなどで次年度使用額71,145円が生じた。 次年度使用額は71,145円、本年度請求額は1,100,000円、合計1,171,145円が本年度の資金額となる。本年度の当助成金使用計画として、パルスシェープディスクリミネータの購入費用として419,364円、プリント基板試作費用として約20万円、線源購入費で約15万円、国際学会参加費用として約25万円、成果発表料(英文論文校正料、英文論文投稿料)として約10万円、消耗品購入費で約5万円の利用を計画する。
|