研究課題/領域番号 |
18K04289
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
上野 和良 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (10433765)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多層グラフェン / 固相析出 / 電流の作用 / 電極・配線 / 電子デバイス / エレクトロマイグレーション / 結晶化 |
研究実績の概要 |
本研究では、銅に代わる低抵抗・高信頼配線材料やインダクタ材料として期待されている多層グラフェン(MLG : Multilayer Graphene)について、結晶性の良いMLG薄膜をデバイス製造に適した低温で堆積する技術として、熱に加えて電流の作用で結晶化を促進する方法を検討している。本研究の前に行った科研費による研究で、化学的気相成長(CVD : chemical vapor deposition)において、電流の作用で結晶化を促進できることを明らかにしたが、CVD法では金属触媒上にMLGを形成するため、デバイス基板に直接MLGが形成できない問題があった。本研究では、MLG膜を直接デバイス上に形成できる固相析出法において、電流によって結晶化を促進し、低温でのMLG膜形成を目指している。今までに、同じプロセス温度において電流の印加によって、MLGの結晶子(グレイン)サイズが、2~4倍に大きくなり、固相析出法においても電流の作用でMLGの結晶化を促進できることが確認でき、400℃においても結晶化が見られた。また電流、温度、ニッケル(Ni)触媒と炭素(C)の膜厚の最適化により、さらに結晶性の向上が得られた。本年度は、Ni触媒に窒素(N)を添加し、触媒から析出するMLGへの窒素())ドープによる低抵抗化を検討した。その結果、MLGへのNドープは見られなかったが、N添加なしに較べてMLGの結晶性改善が見られた。さらに本年度は、電流のMLG成長への作用を直接観察するため、Ni/Cの積層構造を従来と逆にし、Ni上に析出するMLGの観察を試みた。その結果、電流印加によって結晶性の向上は得られたが、Niの凝集によりMLGの核や結晶子が観察できなかった。また、低抵抗化のためのMoCl5インターカレーションについては、グラファイト膜やCVD膜についてドーピングによる低抵抗化の効果を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、C/Ni積層膜をアニールしてデバイス基板上に直接、MLG膜を固相析出により堆積するプロセスにおいて、電流印加によるMLG結晶性改善への効果を検証し、電流・温度・炭素濃度といったプロセス条件の影響を調べるため、以下の項目の実験計画を立てた。 ①電流依存性(加熱温度固定)、②温度依存性(電流固定)、③炭素濃度依存性、④ ①から③の実験結果を踏まえた最適プロセス条件の検討、⑤低抵抗化のためのドーピングと電気的特性評価 前年度までに①、②により電流印加の効果で固相析出においてもMLGの結晶性が改善されることがわかった。電流、温度、触媒Ni膜厚、炭素(C)膜厚を変化させて、MLG結晶性への影響を調べた。C膜厚を一定にしてNi膜厚を変化させた場合には、Ni膜厚の増加に伴って一旦、結晶性が向上するが、さらにNi膜厚を増やすと、逆に劣化する結果となった。またNi膜厚を一定にしてC膜厚を増加するとMLGの結晶性が向上した。C/Ni膜厚の最適化により、結晶性の改善が得られ、デバイス適用可能なレベルの結晶性を実現できる可能性が得られた。さらにNi触媒にNを添加することで、結晶性が改善した。一方で、析出したMLGが均一な膜にならなかった。また電流のMLG成長への影響を明らかにするため、Ni/Cの積層構造を反転して、MLG成長過程の直接観察を試みたが、Niの凝集によりMLGの核発生や成長の観察が難しいことが判明した。今後、低抵抗化の検証のため、さらに温度、電流、時間、膜厚などのプロセスパラメータに加えて、冷却過程の制御などにより、均一なMLG膜の形成を実現する必要がある。一方、インターカレーションドープについては、グラフェイト結晶から剥離したグラファイト膜やCVDで形成したMLG膜に対してドーピング効果が確認できたので、均一な固相析出膜が得られれば、低抵抗化の検証が可能と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
電流、温度、積層構造については、一応、MLG結晶性の点で最適な条件を見出している。また、最適なNi膜厚において、Cの膜厚を厚くするほど、結晶性が高くなる結果が得られている。Ni触媒上のC膜厚を厚くすることによって、Ni膜の凝集が抑制される可能性が考えられるので、C膜厚を厚くするなど、不均一なMLG形成につながるNi凝集の抑制方法を検討し、均一なMLG膜の実現を目指す。さらに、冷却時の析出速度がMLG成長に影響する可能性があると考えられるので、冷却温度プロファイルのMLG析出への影響を調べる。これらの検討により、電気的特性評価により低抵抗化の検証ができる均一な膜の実現を目指す。均一な膜ができたら、並行して検討しているインターカレーションによるドーピングを適用し、抵抗を評価する。また、均一な膜ができない場合においても、固相析出MLG膜のドーピングによる低抵抗化を検証する方法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により実験設備の使用が制限され、予定した実験ができなかったため、低抵抗化を検証するために、均一なMLG膜形成に向けた実験を継続する必要がある。次年度使用額は、この実験に使用する資材や薬品の購入や、作製したサンプルのTEM分析等の評価に使用する計画である。
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