研究実績の概要 |
本研究は、高速かつセキュアな光ファイバ通信のための物理暗号の実現を目指して、極めて多値に光位相を変調する新たな手法を提案し、その動作を実証することを目的としている。提案手法では、光位相変調素子を多段に(例えば2つ)接続し、粗い位相変調と密な位相変調を二段階で行うことで、従来方法では達成不可能な変調多値数を実現する。これにより高い安全性と通信性能の両立が期待できる。最終年度の研究計画として、提案する多段の光変調を行う集積デバイスの基礎検討を行うことを掲げた。 最終年度は、まず多段の位相変調素子を用いた光変調器の構成をシリコンフォトニクスによる集積化を念頭に検討した。共同研究にて2段の位相変調素子を備えたシリコンフォトニクスIQ変調器を試作する機会があり、IとQそれぞれの成分を16ビットの高分解能で変調する実験に成功した。また、物理暗号通信への応用では、今年度は超長距離伝送に挑んだ。光ファイバ周回ループを用いた実験系を構築し、48Gbit/sの物理暗号を、10,000kmを超えて伝送することに成功した。安全性と通信性能に関する検討を行い、このような超長距離光通信にも物理暗号を適用可能であることを明らかにした。以上の研究成果を、光ファイバ通信分野の代表的な国際学会で発表したほか、米国光学会の論文誌にて報告した。 本研究期間全体を通じて、光変調素子を多段に接続して高分解能な光変調実現し、これを10Gbit/sを超える高速の物理暗号へと応用展開し、光集積化に向けて構成を検討するという目標を達成することができた。当初想定を超える成果として、多重技術の導入により48Gbit/sの通信速度を達成したほか、10,000km級の超長距離伝送へも適用できることを実証した。さらに、光集積化については実際にシリコンフォトニクスを用いたデバイスを作製し、その動作を実証することができた。
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