赤外レーザ光を用いる新しい手法である、大腸のポリープ除去治療では、大腸壁表面での水分にによる吸収が大きいため、大きなレーザパワーが必要であり、また内視鏡治療のためには半径15 mm程度の曲げに耐える伝送路が要求される。しかし、現存の伝送路では対応できない。本研究では、この目的も含め、体を全く傷をつけず、従来にない新規な「無侵襲」治療を実現するため、低出力でも優れた切開能力を有するEr:YAGレーザ光と、止血能力のある高出力CO2レーザ光を伝送可能な光学膜内装銀中空ステンレスファイバの導入を提案し、細径(内径0.3 mm)で急峻に曲げることができ、しかも破断のない、従来にない無侵襲志向の内視鏡用高信頼性中空ステンレスファイバシステムの実現を図った。 内径300 μmのステンレスチューブに研磨剤を用いて内面研磨した後に、銀膜ならびに低損失化ポリマーとしてArton膜を成膜することにより、赤外光を伝送するための細径中空ステンレスファイバ先端素子(長さ20 cm)の製作に成功した。Arton膜厚は、 約1.04 μmであり、最適膜厚の約1.36 μmより薄いが、CO2レーザ光伝送用として適した膜厚を成膜できた。曲げ半径15 mmで曲げても折れず、容易に曲げることができ、破断することがない。CO2レーザ光の波長10.6 μmにおいて直線状態で約2.5 dB、曲げ半径15 mm、180°曲げで約5.4 dBとなり、CO2レーザ光を低損失に伝送できることを確認した。直線状態のEr:YAGレーザ光伝送損失は約4.3 dB、緑色LD光伝送損失は約3.4 dBとなり、複数のレーザ光を伝送可能な細径中空ステンレスファイバ先端素子を実現した。
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