研究課題/領域番号 |
18K04296
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
林 宗澤 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 研究員 (40585155)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | テラヘルツ / 量子カスケードレーザー |
研究実績の概要 |
量子カスケードレーザーの新しいリーク電流の解析。非平衡グリーン関数法に基づいた第一原理計算によって、テラヘルツ量子カスケードレーザーの発光層構造における電子密度分布・電流分布・光利得を直接計算する方法を開発し、これらの液体ヘリウム温度から室温までの温度依存性をシミュレーションしました。これにより、従来の構造設計では定量化が難しかった、上位発光準位から発光過程に直接寄与しない遠距離の高エネルギーサブバンド準位への「リーク電流」の存在を確認し発見し、高出力動作および高温動作に対するこのリーク電流の影響を解析しました。テラヘルツ量子カスケードレーザーの解析や設計では、レーザーの発振に直接関わるエネルギー準位である「サブバンド準位」(注入準位、発光準位、引き抜き準位)を中心に発光層の構造最適化が行われており、他の高いエネルギーのサブバンド準位(高エネルギーサブバンド準位)との相互作用は計算による定量評価が難しく、ほとんど考慮されていませんでした。これに対し今回開発した方法では、積層構造中の全てのエネルギー領域のサブバンド準位を同時に考慮し、各サブバンド準位間の相互作用とその影響を総合的に解析できます。解析の結果、上位発光準位から発光過程に直接寄与しない遠距離の高エネルギーサブバンド準位への「リーク電流」の発見および定量化に成功しました。そして、このリーク電流を抑制する新たな構造のデバイスを設計・作製し、液体窒素温度での高出力化を実現しました。テラヘルツ量子カスケードレーザーの高出力化および高温動作性能の向上に成功しました。特に、直接発振過程に寄与していない遠距離の高エネルギーサブバンド準位の光利得と電流分析への影響の定量分析は、世界初の試みです。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規リーク電流の解析を利用して、素子単体最適化することで、テラヘルツ量子カスケードレーザー高出力は成功しました。この新規リーク電流の抑えは高出力と高温動作素子構造の設計方向性を示すことに成功しました。新しい提案している”違いアルミ組成の井戸とバリア構造”のテラヘルツ量子カスケードレーザーはこの高エネルギーサブバンド準位からのリーク電流を大きく抑えることが可能になります。 実際のテラヘルツ応用について、応用し易い液体窒素冷却デュワーの新規設計、最適化すること。および素子の大面積化、活性層の熱特性の向上とデバイスヒートシンクの高効率化も順調に進んでいる。現在実際市販の半導体レーザーのヒートシンク技術をテラヘルツ量子カスケードレーザーのプロセスに導入し、電流注入部分コンタクト熱対応の強化、液体窒素動作温度帯小型の高出力連続動作テラヘルツ光源を実現する。小型リアルタイムテラヘルツイメージングシステムの光源としての改善も確実に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
この解析方法と今回提案した新たな発光層構造の改善法は、特定の材料システムや基本設計にとどまらず、テラヘルツ量子カスケードレーザーの開発全般における特性改善に大きな影響を与える重要な成果です。新規リーク電流減少するため”違いアルミ組成の井戸とバリア構造”を最適化すること、新規の高温動作と高出力テラヘルツ量子カスケードレーザーを作成する予定です。非平衡グリーン関数計算を利用し、カスケードレーザーのメカニズムと材料特性のより深い解析すること。 テラヘルツ量子カスケードレーザー素子の二次DFB導波路とメタ表面構造の導入及び素子更にの連続動作化と小型化。応用向けの新規液体窒素冷却デュワーと小型スターリング冷凍機の投入、より使い勝手の小型液体窒素温度動作するテラヘルツ光源開発の続き。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度中MBEシステムは予想外の漏電トラブルが発生しました。漏電を解決するため、新たなトランスを購入及び投入して、MBEの漏電問題を完全に修復しました。メンテナンスを終え、今MBEは復旧して通常の成長を戻りました。そのため、もともと一年目購入する予定のRIBER社製MBE用Gaセルは二年目に変更することになりました。
|