研究課題/領域番号 |
18K04323
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古川 愛子 京都大学, 工学研究科, 准教授 (00380585)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 組積造 / 地震時破壊挙動 / 耐震補強法 / 個別要素法 / ポアソン効果 |
研究実績の概要 |
開発途上国に多く建設されている組積造は,地震の度に倒壊して多くの犠牲者を出しており,耐震補強法の確立が急務である.数値解析により効果的な耐震補強法を検討する際,破壊の発生や崩壊挙動を扱える数値解析手法が必要となる.しかし現状では,組積造に適した数値解析手法は確立されていない.本研究では,組積造の地震時破壊挙動を3次元で精緻に再現できる数値解析手法の開発を目的としている.当該年度は,ポアソン効果を考慮に入れる方法を検討し,解析プログラムの修正を行った. 申請者が開発した改良版個別要素法プログラムでは,要素は剛体であり,要素が重なり合うことで構造物全体の変形をモデル化している.また,要素間のばねの切断によって要素間の破壊を表現している.しかし,改良版個別要素法に限らず,個別要素法そのものが,2要素間の接触問題を扱うことから,ポアソン効果を表現できないという問題を有している.組積造では,煉瓦に圧縮力が作用したときに,圧縮力作用方向に直交する方向にポアソン効果による引張応力が生じ,ひび割れが生じることがある.この現象を,個別要素法では再現することができない. 改良版個別要素法では,要素間のばね定数を,3次元の応力ひずみ関係におけるDマトリクスの対角成分から導出している.Dマトリクスの非対角成分がポアソン効果に関するものであるが,非対角成分は考慮されていない.そこで,Dマトリクスの非対角成分からポアソン効果による要素間作用力を計算する方法を開発した.具体的には,有限要素法の要素剛性マトリクスの導出方法を援用する方法を提案した.改良版個別要素法のプログラムに修正を加え,ポアソン効果を考慮可能なプログラムを作成した. 割裂試験の再現解析を試みたところ,載荷方向に直交する方向にひび割れが生じたが,割裂が生じる際の荷重は理論解と異なり,定性的な再現には成功したが,定量的な再現には課題を残した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
改良版個別要素法にポアソン効果を考慮する方法を考案し,数式によって記述することができた. 圧縮力によって,圧縮力作用方向と直交する方向に引張破壊する現象を再現することにも成功した. しかし,割裂試験の再現解析を行ったところ,割裂が生じる荷重の理論値と,数値解析で割裂が生じる荷重は一致せず,定量的な再現までには至らなかった.
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今後の研究の推進方策 |
ポアソン効果を考慮する方法を考案したが,定量的な再現精度に課題を残した.理論には問題ないと考えているが,なぜ定量的な再現ができないのか,解明できていない.定量的な再現精度を改善するため,理論の見直し,プログラムの見直しを引き続き実施したい. それに加え,減衰の取扱いについて,検討を加えたい.従来は,要素間のダッシュポットによってエネルギー吸収を行い,減衰特性を表現してきたが,昨年度に非線形ばねによる履歴吸収エネルギーを考慮することができるようになったため,ダッシュポットの取扱いを見直す必要があると考えている.非線形ばねの履歴吸収エネルギーと,ダッシュポットによる吸収エネルギーは,性質が違うものであるので,それぞれの減衰の影響を分析して,減衰のモデル化の改良を行いたい. さらに,精緻化した解析手法を用いて,安価な耐震補強法の効果の検討を行いたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスのため,3月に予定していた国内・海外出張をキャンセルした.また,他の出張に合わせて打ち合わせを行うなどしたため,旅費が少なくなった. 物品費,その他については,他の経費で払っていただくことができたため,少なくなった.
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