研究課題/領域番号 |
18K04328
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
佐伯 昌之 東京理科大学, 理工学部土木工学科, 教授 (70385516)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | MEMS / ジャイロ / 加速度 / 層間変形角 / 地震応答 / 破壊音 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,安価なMEMS加速度・ジャイロセンサを用いて,地震時における構造物の被災指標である経験最大層間変形角を推定できるセンサを開発するものである.また,研究のバックアップとして,構造物に固定されたセンサから地震動指標など構造被害と相関のある指標を計算するための技術開発も同時並行で進めている. 2019年度は,当初の予定通り,市場に流通している入手が容易なMEMSセンサをサーベイし,その中から精度・安定性ともに優れた6軸センサを選定し,新しい試作機(2号機)を開発した.また,その試作機を用いて2軸振動実験を行い,従来までのセンサと比較試験を行った.尚,角速度・加速度からセンサの姿勢角を推定するプログラム(カルマンフィルタを用いた姿勢推定アルゴリズムにより構築)は2018年度にほぼ開発を終えており,解析にはこれを用いた.振動実験データを本プログラムにより解析したところ,従来バージョンと比較して数倍の精度改善が見られた.ただし,解析プログラムはまだ新しいセンサに対してチューニングされておらず,2020年度の振動実験によりチューニングすれば,さらに精度が向上するものと予想される. また,バックアップとして実施している研究においても,構造物に固定したセンサで計測される加速度データから,既存の地震動指標であるSI値を推定する手法を開発している最中であり,その性能検証(どの様な地震動であれば近似値が推定でき,どの様な地震動だと異常値が出力されるか)を進め,様々な知見が得られているところである.さらに,地震時の音の計測データから構造部材の破壊を検知する手法も同時並行で進めており,こちらも目途が立ちつつある.ニューラルネットワークを用いた検知手法であり,実験室レベルでは90%以上の精度で木材破壊音を検知できる状況である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の主たる部分である新しいセンサの試作,層間変形角の推定アルゴリズム開発は完了しており,姿勢角推定プログラムを実装できている.さらに,2軸振動台を用いた精度検証を実施しており,当初の目標は達成できていると言える.ただし,プログラム内のパラメータは新センサ用にチューニングする必要があり,2020年度に実施する予定である. 当初計画では,新センサが地震時のみ起動するようにしたいため,生活ノイズフィルタを実装し,実証試験を行うことを計画していたが,これを中止している.近年の社会情勢を見ると,企業によるセンサ実装が進んでおり,生活ノイズフィルタ等の実装部分について,本研究で推進する意味が薄れてきた.そのため,どの様なセンサを選定し,アルゴリズムを開発すれば,精度よく層間変形角が計測できるかという主たる部分に注力している. また,バックアップといて実施している地震動指標の推定技術の開発や,構造物材破壊音検知手法の開発も順調に進んでおり,研究成果が出始めている. 以上のことから,おおむね順調に進展していると自己評価している.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,当初の予定通り,新バージョンのMEMS加速度・ジャイロセンサを用いて,2軸振動実験を実施し,実際の地震時に計測される(であろう)データを大量に生成する.そして,姿勢角推定プログラム(層間変形角推定アルゴリズムを実装したプログラム)を用いて解析し,精度評価をしつつ,プログラム内にあるパラメータをチューニングする.このプログラムはカルマンフィルタを使用しており,地震時において,加速度データと角速度データのどちらをどの程度信用するかをパラメータで制御している.過去に発生した実際の地震動をテストデータとして,最適な(もしくは頑健な)パラメータを試行錯誤的に探していく. また,バックアップとして実施している研究も継続する.構造物に固定された加速度計で計測された地震応答から地震動指標を計算すると,地震動を過大評価する恐れが強い.その課題評価部分を補正する方法を開発しており,これまでの成果であれば,まずまずの結果を得ている.ただし,現在は理想状態に近いシミュレーションであることから,この検証をよりリアルな状態に近づけ,性能を評価する予定である. また,別のバックアップである構造部材破壊音の検知についても,継続して開発を進める.すでに木材の破壊音データはある程度収集しており,ニューラルネットワークやサポートベクトルマシンなどの機械学習を用いた検知で高い精度が実現できることが分かりつつある.こちらも,実験室レベルから,より実用レベルに近づけた研究にシフトしており,2020年度はスマホによる音計測や,適切な解析パラメータの選定などを行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
残額は1,584円と少額であり,適切に執行できたものと思われる.無理に少額の物品を購入するよりも,2020年度とあわせて,より適切な物品購入に使用する.
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