アラゴナイト型の炭酸カルシウムである焼成ホッキ貝殻粉末をセメントに置換してモルタル供試体は膨張挙動を示す。膨張は注水後から材齢1日までの期間で発生し,カルサイト型炭酸カルシウムである市販の石灰系膨張材より膨張量が大きい。 焼成ホッキ貝殻粉末を混入したモルタルを拘束した場合,セメント質量に対して4%置換したモルタルは,圧縮強度が最も高くなる。この供試体から試料を切り出し,反射電子像の画像解析を行うと,他の置換率のモルタルと比較して毛細管空隙率が最小となる。すなわち,焼成ホッキ貝殻粉末による膨張を拘束して得られる内部組織構造の緻密化(ケミカルプレス)は,置換率4%で最も緻密化され,それにともない圧縮強度が最大となることを示した。 凍害に対する影響を検討した実験では,膨張性セメントモルタルの膨張性能は,温度依存性が高いことを示した。寒中コンクリートを想定した5℃の養生を行うと,標準養生の20℃と比較して,膨張率が著しく小さくなる。また,材齢7日まで5℃の養生を行った後に20℃の養生を行っても,新たな水分供給がない限り,ほとんど膨張は発生しない。すなわち,セメントの水和反応による強度増大で使用される積算温度(マチュリティ)の概念が有効でないといえる。そのため,初期の養生温度が低い場合,適切な膨張が得られず,早期に収縮によるひび割れが発生し,耐凍害性の低下の要因となっている可能性を示した。膨張性セメント硬化体は,初期の適切な養生温度の設定が重要であり,それにより耐凍害性が向上するという結論を得た。
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